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ドバミミズ(フトミミズ科のミミズ)の水中飼育の実験
はじめに:著者の経験から
著者は7年にわたり釣り人の間でドバミミズと呼ばれるフトミミズ科のミミズを実験的に飼育し、傍らで長年、肉食魚を飼育している。その過程でドバミミズ(フトミミズ科のミミズ、ヒトツモンミミズとみられる)に関して興味深いことが観察された。餌として水槽に投入したドバミミズが逃げ延び、2週間以上経過してから底土(ソイル)から元気なまま発見されたことが何度もあったのである。この観察結果は、ドバミミズが水中環境で比較的長期間生存できる可能性を示唆している。
インターネット上で調べられる範囲でも、ドバミミズの飼育において水浸しにすることは避けるべきであるという情報は多い。実際、箱に土を入れて暗所に置くスタイルの一般的な飼育方法で全身が水面下に入るほどの水浸しにしたドバミミズは、1日も持たずに死んでしまうことが著者の実験でも確認されているし経験からも明らかである。著者は、このような水浸しによるミミズの死因は酸欠ではないかと推測している。この考察についてはドバミミズ飼育シリーズ記事の最初の記事を参照してほしい。
★告知★
当記事シリーズ最終章の「ドバミミズの飼育方法」を公開したので告知。これを理解するためにも、シリーズ記事は全て読んでほしい。
本記事では、この仮説を検証するために、酸素を供給した水中という環境下でドバミミズがどの程度の期間生存できるのかを調査することを目的とした実験について述べる。酸素供給が適切に行われる環境下では、ドバミミズが従来の飼育方法よりも長期間生存できるかもしれない。もし、酸素供給がドバミミズの生存期間を顕著に延長することが確認されれば、ドバミミズ飼育の新しい方法論を提供することができるかもしれないと考えている。
この実験は、ドバミミズの水中環境における生存能力を明らかにするだけでなく、今後の研究や応用にも重要な示唆を与えるものであると考えている。釣り餌、水生生物の餌としての利用や、環境修復におけるミミズの役割など、広範な応用可能性が考えられる。以下では、ドバミミズの酸素供給下での生存期間に関する文献調査、実験方法、結果について報告する。
ミミズの水中での生存期間についての文献
ミミズの水中での生存期間についての既存の研究は限られているが、いくつかの重要な文献が存在する。参考にしたのは以下の文献である。
武内 伸夫. (1993). 比較生理生化学会誌, 10(2), 92-102.
Roots, B. I.: J. Exp. Biol., 33, 29-44 (1956)
Nagano, T.: Sci. Rep. Tohoku Univ. IV (Biol.), 9, 97-109 (1934)
これらの研究によれば、ツリミミズ科のアカミミズは、適切な通気が行われている場合、水中でも30週間以上生存できる。一方でフトミミズ科のミミズ、特にヒトツモンミミズやフツウミミズについては、連続通気下でも72時間程度しか生存できないとする記述がある。これらの研究は、ミミズの種によって水中での生存能力に大きな差があることを示唆している。また、これらの種のミミズが水中と土壌の選択肢がある環境下で、積極的に水中を選択する行動は観察されなかったとしている。
ドバミミズ(フトミミズ科のミミズ)に関する文献では、水中での長期間生存に関する記述はこれ以上見つけられなかった。上述の研究ではドバミミズが水中で3日程度の短期間の生存は可能であることは記されているが、1週間以上の長期間生存については明確なデータとはいえない。
このような背景から、ドバミミズの水中での生存能力についてさらに詳細な研究が必要であると考えられる。特に、酸素供給が行われた環境下でのドバミミズの生存期間についてのデータは見当たらない(見つけられなかった)ため、本実験ではこれを検証することを目的とする。
実験方法
実験は、100円均一ショップの3Lのタッパーを飼育容器として行った。柔らかいポリエチレン製の蓋のものでシール性のあるものなら、どこの物でも良いだろう。この蓋に、ハサミで2つの穴をあける。ひとつは観賞魚用エアポンプのチューブを通す穴、もう一つは排気用の穴である。隅から離れたところに穴をあけ、ミミズが逃げ出さないようにする。2つの穴は対角に設けた。(写真右上と左下)
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片方の穴にエアポンプ用のチューブを通し、先端に目詰まりしにくいシリコン製のエアーストーン(ラバーストーン)を接続する。
エアストーンを接続するのは、泡を細かくすることで気/液の界面の表面積を大きくし、十分な酸素供給を行うためだ。土を入れるため、目詰まりしにくいものを選ぶ。
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次に、チューブのもう一端にエアポンプを接続する。エアポンプが雨で水没するのを防ぐため、プラスチック製の飼育ケース(100円ショップ)を逆さに置いてその中にエアポンプを設置する。
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エアポンプは、蓋の口から配線とチューブを出し、ふたを閉めて設置する。
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このエアポンプを屋外用コンセントに接続する。筆者が使用したエアポンプは以下のものだ。
コードが短かったため、屋外用コンセントボックスを用いて延長コードと接続している。
続いて、腐葉土をタッパーに1L入れる(ふかふかのまま)。
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使用した腐葉土は以下の写真の物だ。ホームセンターで購入した。広葉樹のもので完熟と書かれているものを使用すると再発酵によるガス発生→酸欠の心配が少ないだろう。
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このタッパーに、観賞魚用カルキ抜きを入れた水道水をひたひたまで入れる。このタッパーはアルミバッグ(100円ショップ)に入れ、チューブを出してチャックを閉めてしまう。さらにこのバッグを猫除けシート(100円ショップ)の上に置く。エアポンプを入れた飼育ケースも同様に、猫除けシートの上に置く。このようにするのは装置全体を地面からリフトアップして地面と装置の間に空間を設けることが狙いだ。地面からの熱が装置に伝わらないように、そしてエアポンプが水没しないようにする工夫である。アルミバッグに入れるのも、太陽光を反射し、容器が加熱されることを防ぐ狙いがある。これを建物北側のできるだけ日陰になる場所に置いて実験系は完成。
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この状態でエアポンプを運転して72時間置く。これは腐葉土のガス抜き(発酵して出たガスによって酸素の薄まった空気を追い出す工程)のためだ。ガス抜きが終わった2024年6月17日、タッパーにドバミミズ10匹を投入して飼育実験を開始した。ミミズの品種は、拡大鏡での観察や解剖が必要なため同定できていないが、竹藪のわきにある薄い落ち葉の層をどけると居るような、表層性のフトミミズ科のミミズである(ヒトツモンミミズとよく似ているか、もしくはそのもの)。土を何cmも掘り返すことなく捕まえられるミミズだった。
実験結果
操作自体は実験開始後7日目と15日目、23日目に一度タッパーの蓋を開けてカルキを抜いた水を足しただけである。実験開始から30日後の2024年7月17日、タッパー内の泥を掘ってミミズを数えたところ、10匹すべての生存を確認した。この間、最高気温30度以上の日が8回、35度以上の日が1回あった。
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出てきたミミズは、投入時よりもずいぶん太く見えた。成長したのか、水分を吸ってしまったのかは定かではない。このようにして改めてみると、複数種のミミズが混獲されていたように見える。反省点ではあるが、複数種が全部生きていたことはそれはそれで知見ともいえる。
考察とまとめ
腐葉土を入れて水浸しにした容器の中で、エアレーションさえあればドバミミズは1か月飼育可能だった。過酷な気温の日もあって水浸しで全て生きていたということは、やはり箱での飼育で水浸しにするとミミズが死ぬのは酸欠が原因である可能性が高いと言えるだろう。改めて、酸欠についての記事は以下である。
今回は腐葉土と一緒にミミズを入れているため、水だけの場合には異なる結果が得られる可能性がある。イオン濃度が浸透調節の限界(上下どちらでも)を超えればミミズは息絶えてしまうだろうし、餌がないことが原因で死んでしまうかもしれない。浸透調節などに触れている記事は以下である。
著者自身、こんな簡素な装置でここまで完璧に1か月飼いきれるとは考えていなかった。執筆中のメイン記事で紹介しようと思っているドバミミズ飼育方法よりも、これが2か月可能であるならば、夏場の釣りに使うだけならこの装置を大規模化するほうがもしかしたら優秀かもしれないとも思う。ただし、大規模化すると装置が非常に重たくなることが欠点だと言えるだろう。
この実験についてご質問などがある場合は、当記事コメントか、もしくは著者X(旧Twitter)にDMで連絡してほしい。
アカウント→ ブロ@Brotsuri
ドバミミズ飼育シリーズ最終章、「ドバミミズの飼育方法」はこちら
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