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敬老パスについて考えてみる@クルマを1台減らして豊かな生活を手に入れよう外伝その2


プロローグ

 「どうして(高齢者の)交通費までわれわれの給料から払わないといけないんですかね?」(札幌市民 20代)
 「われわれも払ってきたんだよ!」(札幌市民 高齢者)
 世代間の対立が浮き彫りとなっています。

https://www.uhb.jp/news/single.html?id=48142 より

札幌市の敬老パスが炎上しています。もともと行政の負担が大きくなったことで7万円分迄対応していたパスの上限額を上限2万円まで引き下げ、+徒歩数などに応じたポイントへ移行する予定だったのが対象の高齢者の反発で上限4万円に変更になった事で若い世代の反発を招いたようです。さてここでは敬老パスを中心にいろいろ書きたいと思います。

札幌市の敬老パスを見ていく

https://www.city.sapporo.jp/koreifukushi/korei_riyou.html より

制度概要
札幌市にお住いの70歳以上の方を対象に、外出を支援し、明るく豊かな老後の生活の充実を図るため、1,000円~17,000円の自己負担で、10,000円~70,000円分の公共交通機関の利用ができます。

利用できる公共交通機関
敬老優待乗車証には次の2種類があります。いずれも市内での乗り降りにのみ利用でき、市内から市外、市外から市内の乗車には利用できません。
1.敬老ICカード
市営地下鉄、市電、中央バス、ジェイ・アール北海道バス、じょうてつバスで利用できます
・乗継料金が適用されます。
2. 敬老乗車証(回数券)
夕鉄バス、ばんけいバスで利用できます
※敬老ICカードがなければ、交付を受けることができませんので、事前に敬老ICカードの交付申請が必要です。

https://www.city.sapporo.jp/koreifukushi/ikigai/ikigai4.html https://www.city.sapporo.jp/koreifukushi/korei_riyou.html より

まず、この騒動の舞台となった札幌市の敬老パスについてみていきましょう。内容としては
・70歳以上の高齢者が皆対象
・札幌市内のバス・地下鉄・路面電車が1~2割の負担で最大7万円分利用可能
となります。確かに現役世代が200円以上払って利用できる公共交通が数十円で利用できると言うのは若い世代が反発してもおかしくないと思います。ただ市が税金から負担して廉価に利用できる部分に注目されがちですが、札幌市(地下鉄・市電)、中央バス、JRバス、じょうてつバス、夕鉄バス、ばんけいバスと6つの事業者に跨ったパスと言う点も注目したいところです。

横須賀の2つのパスから見る補助金なしの商売として成り立つ敬老パス

70歳以上の市民を対象に、市内のバス路線を6か月間乗り放題で利用できる「はつらつシニアパス」を発売します。~中略~

価格

20,500円(消費税込み)

ご購入いただける方
横須賀市在住の70歳以上の方(有効期間末日までに70歳となる方を含みます)

https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/2640/ikigai/siniapasu20150309.html より

日頃より、京浜急行バスをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。京浜急行バスの路線バスが半年間乗り放題の「ふれあいパス」を12月1日(日)から発売いたします。どうぞご利用ください。

ふれあいパスをお求めいただけるお客さま
70歳以上の方≪1955(昭和30年) 6月30日以前にお生まれの方※≫

今回発売のふれあいパスでご利用いただける期間
2025年1月1日(水・祝)~2025年6月30日(月)

発売金額
22,000円(現金のみの発売)

https://www.keikyu-bus.co.jp/topics/2024/1120_2161.html より

さて敬老パスを考えるにあたって私の地元横須賀に関わる2つのバス乗り放題パスにご登場いただきます。上の引用は横須賀市の敬老パスとも言えるはつらつシニアパス、下は横須賀市のバス運行を独占する京急バスの横須賀市外も含めた全線利用可能なふれあいパスのものです。横須賀市のバス会社が京急バスしかない為、実質的に横須賀市外でも使えるふれあいパスがはつらつシニアパスの上位互換かつ補助金なしの敬老パスとなっているのが見て取れます。

https://www.keikyu-bus.co.jp/aee8c01a384619ae99992ba87b57a92b70f6743a.pdf より

そしてこのふれあいパスの半年22000円と言うのは実は通勤定期の最低金額帯の45%程度、同様に通学定期のそれと比較して60%程の価格となります。

65歳以上を対象としている「はつらつシニアパス」は、市内すべてのバス路線を6カ月間乗り降りできるもので、販売価格は17900円。高齢者の外出を支援する事業だが65〜69歳の購入者のうち、約半数が「通勤・仕事に使用している」として目的と合致していなかった。そこで、対象年齢を70歳以上に引き上げ、19600円に値上げする。

https://www.townnews.co.jp/0501/2017/12/15/411746.html より

一見ものすごい優遇の様に思えますが、背景には何があるでしょう。上は2017年に行われた横須賀市の「はつらつシニアパス」発売価格変更の際の理由の報道ですが、ポイントは通勤での使用となります。65~69歳の世代が対象外となった背景には通勤が多かった為と書かれています。

https://www.keikyu-bus.co.jp/recruit/2023/0712_2903.html より

それでは何故通勤での使用が問題になると言うのかと言えば、まず利用頻度が上がる事、通勤・通学をする人は基本的に週5往復、10回、1日1回以上利用する可能性が高いですが、どんなに廉価に利用できても通勤・通学をしない人がそこまでするとは考えづらいです。またもう1つは利用がラッシュ時に集中しがちな事です。上は京急バスの運転手の募集要項から抜き出したものですが、ラッシュ時間帯対応と思しき時間帯の手当の設定があるのが見て取れます。そう考えると運転手の手当てが抑えられるラッシュ以外の時間帯に定期客より頻度の低い利用となるから70歳以上向けの全線パスが作られ、定期よりも廉価になった背景が見て取れるのではないでしょうか?

逗子市の対応に見る行政が敬老パスに補助を出す理由

https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/167/2412.pdfより

さて前段でバス会社側の事情を見てきたので続いては行政側を見ていきます。上は横須賀市の隣逗子市の広報から、京急の販売している「ふれあいパス」購入に関する助成のお知らせですが見てみると
・市民税非課税の人
・免許自主返納を行った人
に向けて助成を行っているのが見て取れます。言って見れば
・高齢者の免許返納
・年金生活者の外出促進

と言う政策目標の実現に為に行っていると言う非常にわかりやすい形です。

バス路線の集中する横須賀市中心部にあるショッピングセンターCOASKA

時にレストランであり、喫茶店であり、高齢者の集会所にもなる「フードコート」。その姿は雲のように移り変わりが激しく、楽しみ方は無限大。例えるなら「市井の人々のオアシス」だ。

https://toyokeizai.net/articles/-/749247 より

高齢者の免許返納へのフォローは分かるが年金生活者の外出促進は現役世代に関係ないと思われる方もいると思いますが、重要なのは高齢社会の今、高齢者が回す経済は小さいものではないという事ではないかと思います。実際平日昼間のショッピングセンターへ行くとそれは理解できるのではないかと思います。言って見れば高齢者の外出支援と言うのは地域に例えばショッピングセンターのような商業施設にい続けてもらう間接的な商業支援と言う側面を持ち、それを縮小・廃止する際にはそう言ったお店の撤退リスクも当然あるというのは考えておいたほうが良いと思います。

敬老パスの先にある子どもパス

https://www.keikyu-bus.co.jp/line/ticket/ticket.html より

・小児定期券の新設
通学に限らず,通塾や習い事などご利用区間に関わらず均一運賃で,小学生以下であればど なたでも本人確認書類(健康保険証など)のご提示のみでお求めいただけます。
※通学証明書や学生証は不要です。
発売額 1か月 2,440円 3か月 6,950円 6か月 13,180円

https://www.keikyu.co.jp/assets/pdf/20230810HP_23053TE.pdf より

さてこれまで敬老パスを見てきましたが、実は子供向けの乗り放題サービスも出て来ています。引用は京急バスのものですが神奈川県では小田急バスや神奈中バス等で同様のサービスが始まっています。横須賀市や逗子市の場合は京急バスが独占している訳ですから敬老パス「はつらつシニアパス」の上位互換のサービスが小学生の場合敬老パスよりも廉価で利用できます。これが成立した背景には子供(小学生)は高齢者同様通勤・通学定期的な利用をする可能性が低く、この価格でもペイしやすいというのは忘れてはならないと考えられます。

利用できる公共交通機関
敬老優待乗車証には次の2種類があります。いずれも市内での乗り降りにのみ利用でき、市内から市外、市外から市内の乗車には利用できません。
1.敬老ICカード・市営地下鉄、市電、中央バス、ジェイ・アール北海道バス、じょうてつバスで利用できます。
・乗継料金が適用されます。
2. 敬老乗車証(回数券)・夕鉄バス、ばんけいバスで利用できます。
※敬老ICカードがなければ、交付を受けることができませんので、事前に敬老ICカードの交付申請が必要です。

https://www.city.sapporo.jp/koreifukushi/korei_riyou.html より

ただし札幌市をはじめとする大半の自治体は地域を運行するバス会社が複数社であり敬老パスと同様のサービスを作ろうとすると補助金の前に各運行事業者の利害調整を行う必要があります。札幌市の場合だと札幌市(地下鉄・市電)、中央バス、JRバス、じょうてつバス、夕鉄バス、ばんけいバスの実に6事業者、これらを調整せずそれぞれ単独で作っても「塾に行くときは使えるけどサッカーの練習に行く時は使えない」みたいな中途半端なものになる可能性が高いです。そう考えると敬老パスの枠組みがある事で子供向けのサービスの足掛かりとなり得ると考えられないでしょうか

まとめ

さて纏めて見ます。

・補助金が無くても通勤・通学をしない高齢者向けのバス使い放題のパスは利用頻度・コストの高い通勤輸送が無いので可能で実在(ふれあいパス)
・敬老パスの助成の理由は免許返上者へのフォロー、年金生活者向けの外出支援と考えられる
・敬老パスへの補助・助成の削減は可能だが外出支援による地域経済の活性化効果を考える必要がある
・京急バスでは通勤・通学でバスを使わない子供(小学生以下)向けのバス使い放題のパスを子供向け定期の形で敬老パスよりも廉価で導入している
・横須賀の様にバス会社が1社ではない多くの地域では敬老パス導入には地域のバス会社の利害調整が必要で、その実施は子供向けパスへ応用できる

その上で札幌の敬老パスの今後について私なりの考えを書くと

・複数の事業者を纏めて作る敬老パスの枠組み自体は残すべき
・敬老パスへの補助・助成の削減は敬老パスの外出支援の経済効果を慎重に検証したうえで考えるべき(逗子市の様に補助なしのパスへ対象の人向けに助成する形への変更もあり)
・敬老パスの枠組みを利用して子供(小学生、出来れば中学生も)向けのパスを作ることも検討すべきでは
・敬老パスの枠組みに更にJRも加えて観光客向けの1日乗車券を作ることも検討すべきでは

と言った感じになります。言って見れば若い世代の負担軽減は考えていくべきだが、「若い世代は搾取されている」と言う煽りに乗って複数の事業者を纏めて1つのサービスを纏める敬老パスと言う枠組みを放棄するのはもったいないし、それを応用してより多くの人に駅となる施策を充実させるべきと言う事です。豊かな生活の為と考えると煽りに乗って有用な施策やそれによって出来た経済の循環を無くしてしまうことほど馬鹿らしい事はないです
それではクルマを一台減らして豊かな生活を!!


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