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#62 - Rise (ライズ) - 【 Dan Vasc を聴こう】

レコードレーベルには所属せずに YouTube で活動するミュージシャンは、Spotify  (スポティファイ) などのデジタル配信サービスに自身の作品を発表して収益を得ている。

そこで毎月発生する諸々の手続きを肩代わりするのが、デジタル・ディストリビューターという存在である。

動画投稿の約3ヶ月後には、手数料を差し引いた金額が届くそうだ。

Dan Vasc  (ダン・ヴァスク) もいろいろと調べた末に、年間 20 ドルの手数料を支払うと好きなだけ投稿でき、
"Keep 100 % of your earnings"  (収益の 100 % があなたのものです)
が謳い文句の  DistroKid  (ディストロキッド) というアメリカの会社と契約し、何か月も問題なく送金を受けていた。


さて、初の大ヒットとなった、#59 の  Toss A Coin To Your Witcher  (トス・ア・コイン・トゥ・ユア・ウィッチャー) を 2020 年1月に投稿してから3ヶ月経った。

ワクワクしながら明細を確認すると、入ってくるはずの金額の3分の1 (約4千ドル) が足りない。

何かの手違いだと思い、ダンは丁重な問い合わせメールを送った。

数日後、
「米国外の契約者様から徴収する所得税の分です」
との返信が。

他のアメリカの会社からはそんな請求は一切来ていないし、そもそも所得税はミュージシャン本人が自国で支払うものである。
また、収益の 100 % 保証を明記しておきながら差し引くのもおかしい。

いくつかの矛盾点を指摘した丁寧なメールを再度送ったが、返信に説明は一切なく、
"Please consult a tax professional."  (税の専門家にご相談ください)
で締めくくられていた。
要するに、
"Ask an accountant."  (アスク・アン・アカウンタント : 会計士にお尋ねください)
という意味だと、ダンは言う。

数週間に渡ってやり取りをしたが、さらなる矛盾を重ねながら言い逃れをし、最終的には、
"Ask an accountant."
で締めてくる。

「そんなにその言葉が好きなら、
DISTROKID
ASK AN ACCOUNTANT
と、ロゴに付け足したらいいじゃないか!」
と皮肉っていた。

実は、弟の  Davi Vasc  (ダヴィ・ヴァスク) や、同じくブラジル人 YouTube シンガーの  Violet Orlandi  (ヴァイオレット・オーランディ) 、他にも大勢のミュージシャンが同様の被害を被っていたため、ダンはこの件を公にする動画を作成したのだ。

それが、2020 年5月 22 日投稿の、
" I WAS ROBBED ∣ DistroKid Steals Money From Musicians"  (窃盗被害∣ディストロキッドはミュージシャンから金を奪っている)
である。

皆さんにも是非ご覧いただきたい。
自動翻訳の精度は8割くらいだと思うが、彼の言いたいことはだいたい伝わると思う。



ディストロキッドの所業には本当に驚く。
だが、それ以上に驚いたのは、ダンの知性とユーモアのセンスである。

他の動画内のトークなどを聞いて、"相当頭の良い男だな" と以前から思ってはいたが、今回の動画で見せる、会社の矛盾点を逐一洗い出し理路整然と説明する彼の論理性には、本当に舌を巻いた。

おまけに、英語のネイティブではないのにこの話力である。

また、怒り一辺倒の動画にするのではなく、要所要所で笑わせてくれるのだ。

事が片付いた今見ると、この動画は1つの完成されたエンターテインメントである。

上記のロゴ提案。

ホームページの魅惑的な説明に対する、
"Really!?"  (本当ですか!?)
の3連発。

最後の返信内容を視聴者に推測してもらい、
"If your guess was 'Ask an accountant' … congratulations!!!"  (もしもあなたの推測が『会計士にお尋ねください』だったなら … おめでとう!)
と言う中、画面に舞う紙吹雪。

動画のいよいよ最後、真面目な顔で、
「こんな動画は作っていても楽しくありません。私はミュージシャンで、探偵ではないんです。でも、自分にできることはしたつもりです。
もしも質問や懸念、私でお役に立てることがあるなら何でも、
"You can absolutely feel free to …" (どうぞ遠慮なく … ) 」
と言った後に続くダンの言葉。

一々に、私は爆笑してしまった。


終盤の BGM は、スウェーデンのハードロックバンド  H.E.A.T  (ヒート) の曲である。

ダンは 2020 年5月 30 日に、バンドと同郷の VictorTheGuitarNerd  (ヴィクター・ザ・ギター・ナード) (#12 へ) とのコラボでカバーした。


I've decided to be forever free of your lies
(お前らの嘘にはもうこりごりだ)
Hear a cry in the night
(夜に響く叫びを聞け)
It's the sound of a raging crowd
(それは怒り狂った群衆の声だ)
It's time to rise
(さあ、立ち上がる時が来た)


今回の動画にぴったりの選曲である。



🔵 I WAS ROBBED



🔵 Rise




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