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日本最古の再開発に学ぶ伊香保温泉の風情とその未来


伊香保温泉に風情が残るわけ


群馬県の伊香保温泉。草津温泉と並ぶ風情あふれる温泉街です。この二つの温泉街には常にたくさんの人通りがあり、国内外の人々が歓声を上げて写真を撮るスポットだらけの風情ある街並みがあります。車道沿いにホテルが立ち並ぶ多くの温泉街が寂れてしまう中、草津温泉と伊香保温泉には、なぜこんなに風情が残っているのか、今日、立ち寄った伊香保温泉を眺めながら少し考えてみました。

伊香保温泉と草津温泉の共通点

まず共通点としてすぐに思いつくのは、歩くしかない石の階段とか、車で通るのがとても困難な細い路地のメインストリートが古くからそのまま残されていること。

やはり、車でスピードを出して通り過ぎてしまう街並みでは、人が歩いて楽しい、ギュッとたくさんのお店が集まった賑やかな温泉街は維持できないのでしょうね。

千と千尋の神隠しのモデルの橋かも、とか

広い車道沿いの温泉ホテルが求められるわけ

おそらく、道を広くして火災時に大型車の消防車が全ての建物に横付けできる街並みを作るというのは、消防関係の人達が防災面から強く求めてきていることだと思います。また日陰問題も含めた都市計画上の建築規制が大型温泉ホテルが広い車道沿いにしかない理由かと思います。

また、高齢者が含む団体客を素早くまとめて移動させるツアーを企画する旅行会社の人は、大型観光バスを玄関に横付けできる温泉街の街並みを好むような気がします。お客の側は合理性より風情ある街並みを喜ぶような気はしますが。

あの智将が立てた450年前の都市計画

伊香保温泉は長篠の戦いに敗れた武田勝頼が将兵の傷を癒すため真田昌幸に命じて再整備させた温泉地と言われています。今から約450年も昔、日本最古の温泉再開発計画です。その時、今のメインストリート、石段街沿いに源泉から温泉の導管が通され左右に温泉宿が並ぶ、風情あふれる温泉街の基礎が形成されました。そういえば武田氏の所領だった富士吉田市でも富士山からの流水を左右に振り分けた富士山登山ガイド、御師さんの宿の中心街、御師町通りが形成されていて、両者の構造はとても似ている気がします。

あえて不便を維持する街づくり

とにかく駕籠や馬車、人力車、乗用車等ではなく、人が歩くしかないメインストリートでこそ、中心街の賑わいが維持される。それを知ってか知らずか、この都市計画を立てた真田昌幸、さすが智将です。

最近、海外の大都市や日本の都心で車の入れない楽しいエリアを意図的に作り、人が集まる街並みにする努力が始まっていると耳にします。その取り組みで車の保有率も下がり環境に優しい取り組みになるとも聞きます。京都も道を狭いまま広げない街づくりをしているせいなのか、戸建が多い割に駐車場がある家がとても少ないことに驚かされます。

でもそんな都心だけの話ではなく、元々、道が細くて不便な田舎の観光地こそ、歩いてでも来てくれる何かがあるのなら、あえて道路を拡幅せず風情を大切にしていく価値観というのが重要なのかもしれない、とこの街を歩きながら思いました。

何かしないと、今の街並みは維持できないのかもしれない

おそらく今の法律では、消防車が通れる幅4m以上の太い道に面していないか、セットバック、拡幅のために土地を提供できない家は建て直しができないかと思います。さらに建て直しのようなリフォームをしようとしても、耐震性の審査が段々厳しくなってきているので、コスト的にこれも難しくなってきていると思います。また急傾斜地の店舗の密集地は風情があるのですが、崩壊の危険性や延焼しやすさもあり、資材、輸送の困難性を含め建築コストの問題がさらに山積しているように感じられます。

今の伊香保温泉の風情ある街並みを次世代に引き継ぐには、セットバックさせまくるだけではなく、細い路地でもなんとかする、街並み優先の街づくりをできる柔軟性を作る必要があるのかもしれません。そういえば京都市では建築基準法の適用除外規定を条例で定め、古い街並みを守ろうと真剣に取り組んでいます。他の自治体でも街並みを維持するための多様な価値観で条例づくりが広がるといいな、と願います。

車が走らない伊香保温泉、猫達も冬の間、温泉のスチーム浴を存分にエンジョイしてるみたいです。ここの湯加減、丁度いいよ、と仲間を呼んでいて心和む風景です。モータリゼーションの中、こんな温泉街、あとどのくらい残っていくのでしょうか。

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