
バーチャルYouTuber朝乃ひざし その華麗なる配信人生
ドキドキ☆初配信!
[はじめまして!朝乃ひざしです!]
配信冒頭より抜粋
あー……テスト、テスト………。
大丈夫かな……。声入ってるか……。
………。
……誰か来るまで待ってようかな………。
(三分間無言)
……あ…視聴人数が1に……。
えー…こんにちは?あさのひざしで——0になっちゃった…。
あ、また1……。これも減るかな。
……まあ、こんなもんかな……しばらくこんな感じだろうし、ちょっと喋ってみようかな…。たぶんチャットもこないし……。
えっと……、あらためて、朝乃ひざしって言います。名前の由来は、エーフィの…えー、ポケモンのわざです。いつも【SNS名】で言ってるとおり、推してる【バーチャルシンガー名】さん…とか、【某アーティスト事務所】のことをずっと考え…ていて、それで、自分もVtuberやってみたいなって思って、こ、こんな感じで……初めたわけなんですけど。
【某アーティスト事務所】所属の方たちはアーティストって感じで、こんな雑談みたいなVのスタイルじゃない…んですけど、私がいきなり歌…とか出せないし、まず下敷きみたいなのがほしいなって…。で、とりあえず、とりあえず自分のチャンネル作って、いつか歌ってみたとかやってみたいなぁ〜……みたいな、感じで、。
……あっチャッ!?チャット来てる…!「こんにちは!声かわいいですね!」ハッ…。【アカウント名】さん、コメントありがとうございます…。へへ、なんか、見られてる実感が出てきて急に恥ずかしくなってきちゃった。……【アカウント名】さん、私初配信でお喋りあんまりうまくないですけどゆっくりしていってもらえたらうれしい…です。あぁ、なんかすごく雑談配信っぽい。嬉しいなぁ人がいることっ……
(※この時点で視聴人数が再び0に)
(数分間無言)
…(深呼吸)まずい。あんまり………無言になるとアーカイブ残すの恥ずかしくなるやつ。……んー、壁打ちみたいな雑談だと…心がしんどいし、なんかゲーム…やるか。雑談の予定だったけど、ゲームやってると自然に独り言出るし、まだ、マシ……かな。…うん、がんばります。
(Splatoon3を起動。以後ゲーム実況に)
ワクワク♪記念配信!
[朝乃ひざしチャンネル1周年&登録者数1000人記念配信!]
より
……あ、あー。こんひざ〜。朝乃ひざしです〜。あ〜あ〜w。ありがとうございます〜。ありがとうございます。
はい。えーみなさんも言ってくれてるし、枠名のとおりなんですが…。朝乃ひざし、チャンネル登録者数、1000人!突破いたしました〜!わ〜wみんなありがとうございます!
「おめでとう!」ありがとうございます!【アカウント名】さんもずっと見てくれてありがとうございます!わ〜【アカウント名】さん!【アカウント名】さんも来てくれてる。嬉しい〜!
えーあと、ちょっと遅くなっちゃったんですけど…朝乃ひざしチャンネルも1周年です!ぱちぱちぱち〜。うれしいことが重なって倍ハッピーです!
始めた頃は絶対1年も続かないだろうなって確信してたし、登録者数だって2桁いけば良い方だって本気で思ってたんですよ。今見てる景色が若干信じられないまである。うん。
「初見です!」初見さんありがとう〜!そう。1年前を思うと、初見さんにこんなフランクになれるのもだいぶ成長してますからね?初見さんのコメント拾って、どう返せばいいのかオロオロして結局無言になる、とかメッチャトラウマになったし。恥ずっ!
いろんなことがあって、前向きになれた気がします。みんなのおかげでお喋りにも自信ができました。だから、今日はちょっとした宣言をしようかな、って思います。
「重大発表?」【アカウント名】さん、大げさに言えば合ってる。言うだけですけどね。
言うよ?
私朝乃ひざしは、企業Vtuberオーディションを受けます!
言った、言ったぞ!もう戻れない!あー、w、言うだけなのに心臓バクバクしてる。
みんな驚いてるー。ふふ。私も、自分がこんなこと決断するとは思ってなくて、驚いてます。
小説も日記も半年も続かなかった私が、はじめて、はじめてですよ?インターネットで1年間同じことを続けられたっていう事実と、まだまだVtuberを続けたいって気持ちが合体して、野心が出てきたぞー、わー、みたいな…。それとー。Vとしてもっと大きくなれば、【バーチャルシンガー名】さんに近づけるかな…って思って。遠いところの存在が、いつの間にか目標になったんです。うーん。やはり遠いところまで来た…w
絶対落ちるよ?絶対落ちる。うん、玉砕上等だし。でも受かるまでやめ…やめません!……2年くらいは!…挑戦し続けます!だからまあ…ゆるーく応援してもらえたら嬉しいです!がんばります!
以下略
私、バージョンアップ!!
[はじめまして!【Vtuber事務所】所属、朝乃ひざしです]
より
……あー。あー……。んんっ…。
聞こえてますかー?
えー。おほん…。3000人の初見のみなさん。はじめまして!個人勢あらため!【Vtuber事務所】所属!朝乃ひざしです!これからどうか、よろしくお願いしますー!そして残り1000人のリスナーさん…私を応援してくれてたみんな。ありがとう!朝乃ひざし、【Vtuber事務所】に所属することになりました!やったー!
まずはじめましての方に向けて…、軽くですけど自己紹介…を、させてください!わたくし朝乃ひざしは、うたうことが好きな【検閲】。それで、えっと….こっちはあんまり自信ないんだけど、小説も一応、書いてます。【SNS名】に【小説投稿サイト】のURL貼ってるんで…恥ずかしいけど、気になった人は読んでもらえると、うれしいです!はずかしい!
…なんか本当に、見たことない量のスパチャをいただいてまして…恐縮すぎる…。あの〜配信の最後にまとめて読ませていただきますので〜。…まさかこれを言う日が来るとは…w
えー。それから…私をずっと見ていてくれてたみなさん。あなたたちのおかげで、私はずっと憧れだったこの場所に立つことができました。本当に!ありがとうございます!もちろんここがゴールだなんて思ってません。むしろここからが始まりで、今までの比ぃじゃない、くらい、躓くこともあるでしょう。というか今もめちゃくちゃ緊張してるし…。だけど、だけど…なんだろう。ww えー、まだ全然自信だってついてきてないんですけど、【Vtuber事務所】の大先輩たちの隣に、堂々と胸を張って立ってられるくらいすごいやつに、なります!なるぞ!うお〜!wがんばります!
以下略
重大発表!ついに…!?
[《重大発表》ついに……!]
より中盤部分
「もったいぶるな」「はよ言え」いやもったいぶってるけどね!?いやまじでさぁ〜、これ腰抜かすよ?みんな。
【アカウント名】さんスパチャありがとう、「おめでとう!」いやまだなんも発表してないから!www
あっもういい?もう言うか!
はいっ……ドーン!
(朝乃ひざし【作品名】書籍化!の文字)
朝乃ひざし!このたび!作家デビューいたします!!わ〜〜〜!ぱちぱちぱち!すごい!すごすぎるー!
はい!ww期待通りの反応ありがとう!【出版社名】様からお声がけいただいてね!ついに!って感じですよ!いや〜夢叶っちゃったよな〜。
スパチャやばいな!wwwありがとうあとでまとめて読みます!
はい、これ…【作品名】は、あたしの【小説投稿サイト】読んでくれてる人なら察しついてると思うけど、【検閲】、【検閲】。
「詩のやつだ!」【アカウント名】さんそう!それ!誰も歌わんのに作品中に歌詞書いたやつ。ワンシーンだけど魂込めたの。まだ読んでないやつらは読んでほし〜!魂込めたから!まじ!やつらって言っちゃった。ww
ん〜……え〜…(少しだけ間)。
(この際のチャットには「【バーチャルシンガー】ちゃんに歌ってもらえるといいね」等のコメントを確認)
…んっ、んん。
えー、次!見てこれ見て!
(書籍の表紙の画像)
どん!表紙もできてま〜す!なんとあの【イラストレーター】さんに描いてもらいました〜。ぱちぱちぱち。素敵でしょ!?うんうん。ふふ。そうそう。【主人公】がほんと、イメージそのままで可愛っ…っ……。
(「【バーチャルシンガー】に似てる!」等のコメントを確認)
………。
……うんうん。えーと…。言いたいことは非常によくわかります。けどー…。なんていうか、他所の…V……チューバーさんの名前を出すのはちょっと、えー…向こうに迷惑がかかるかなー…って思うので、控えてくれると助かります。
…うん。はい!次!今日はまだまだお知らせあるんでね!がんばっていきますよー!
以下略
ハラハラ!?初めての炎上!
「だいぶ前に相互だったVtuberさんの小説読んでたけど、私の書いた詩が勝手に引用されてる……
微妙に表現変えてるけど明らかに私のなんだよ。遠いところに行っちゃったとは思ってたけど、こんなことになるとは…悲しいです」
配信の数日前、【アカウント凍結】より上記の投稿があった。数百を超える反応があったのち、アカウントは非公開となった。
《Chants of Sennaar》謎の塔を調査せよ!Part2より
『チャンネル登録者のみモード』
『登録期間が24時間以上のチャンネル登録者のみがメッセージを送信できます』
(PC操作音)
……んー………。
これ…限定モードでも…こう…こんな感じか…。
…………。
『登録期間が【検閲】以上のチャンネル登録者のみがメッセージを送信できます』
……うん。止まった…かな?
うんうん。こんひざ〜。こんひざ〜ということでー。はい。あのー触れないので、みんなも触れないように…お願いします。
「$100: 【アカウント名】
みんな落ち着いて
ひざしーを信じよう 」
「$100:【アカウント名】
【誹謗中傷】 」
「$300:【アカウント名】
ひざしー、荒れるからもう枠閉じてよ 」
……………。
$【検閲】:【アカウント名】
明らかにあの話題のこと無視できてないし、ここまで拡散されたら本人が言及しなきゃ収まらないよ。
いい加減声明出したら?
…はあ〜〜。
チッ。あ〜…、【コンプライアンス違反】、もう。
あの〜。いっ………たん、枠閉じますねー。
『朝乃ひざしチャンネルを待っています』
【Vtuber事務所】の告知ページより
おしらせ
平素より【Vtuber事務所】及び弊社所属Vtuberを応援していただき、誠にありがとうございます。
SNS等において弊社所属の朝乃ひざしに対する誹謗中傷、悪意に基づく虚偽の情報の流布、他の弊社所属Vtuberに対する誹謗中傷や危害予告がなされ、これが悪化・継続しておりました。この件に関し、多くの方々にご心配やご不安をお掛けしていることをお詫び申し上げます。
当社において、朝乃ひざし本人から事実関係を聴取いたしましたところ、そのような事実は無いという旨を確認致しました。
この件に関して、朝乃ひざし以外の他の弊社所属Vtuberにも被害が及んだことから、朝乃ひざし本人の希望もあり、加えて本人の精神状態の回復のために活動を休止するという判断に至りました。
改めて、この度は本件に関して多くの方々にご迷惑とご心配をお掛けしたことをお詫び申し上げます。
朝乃ひざし応援してくださっているファンの皆様、並びに関係者の皆様には、ご心配とご迷惑をおかけして申し訳ございません。
まだ、本件に関する所属Vtuberへの直接的な問い合わせはお控えいただきますようお願い申し上げます。
こっそり❤︎メンバー限定投稿!
朝乃ひざし メンバーシップ限定コミュニティより
休止中ですがちょっと吐き出させてね
いろいろ考えてしまいます。
私の口から出た言葉は事実としてその場に残るけど、これを文字に起こすと全部が嘘っぽく見えてしまう。
ああでもないこうでもないと書き散らして、それで結局、画面の中で死んだ文字たちをむりやりつなぎあわせてできたものが、私の小説でした。
フィクションだから全部嘘なのだけれど、本当は嘘なんかつきたくない。そんな矛盾した思いが創作への燃料だった気がします。
でも、最近は自分で書いたお話のことを思い出せなかったり、書いたものが全然違う誰かの作品に見えたりして、存在意義すら分からなくなってしまうんです。
何を持って走り続けてきたといえるのか。
昔のものを切り捨てて、それは本当に継続といえるのか。
お話はもう、なんにも浮かばなくなってしまいました。
昔は書くことだけがすべてだったのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
暗い文章で心配させてごめんね
体調は回復に向かっています
〜〜〜〜
この投稿を最後に、朝乃ひざしチャンネルの更新は途絶えた。
数ヶ月後、朝乃ひざしは体調不良による配信活動継続の困難を理由に【Vtuber事務所】から「卒業」している
Cパート!?キミだけに、おしえるね
無題
んんっ。あーあー。マイク入ってるかな?まあそれはこの際どうでもいいか。
お久しぶりです。朝乃ひざしです。……こんな時間でも人来るもんだな。登録残しといてくれてありがとう。でも残念ながらすぐ消えるよ。そもそも私がチャンネル運営権持ってるから、残すのも消すのも復活させるのも私の自由にできるわけ。……まあこれ契約違反だから見つかり次第強制終了だけど。こんな時間だし、5分……10分くらいはまあ、大丈夫だと思う。みんなが黙っててくれるなら。
とりあえずみんな、…迷惑かけてごめんなさい。ずっと謝りたかった…です。私の都合で振り回して、何も言わずにいなくなって。全部私の責任です。ごめんなさい。
【アカウント凍結】さんの告発は、事実。
私は【アカウント凍結】さんの詩を盗んだ。これは紛れもない真実です。
【アカウント凍結】さん、本当に申し訳ありませんでした。
ずっと昔、私のアイデンティティは小説だった。小説、だけ。頭はよくないし、喋りだって全然。お話を書いてさえいれば、自分が何者か証明できた気がした。Vtuberになってからもそう。活動のかたわら小説を書いてる Vtuber…良い響きでしょ?だから私は、小説っていう自分の個性を手放したくなかった
って思い込んでたけど、今思えば違う。今も昔もずっと、お話を書いてなきゃ私は私でいられなかった。
昔は【バーチャルシンガー】さんのファンコミュニティで二次創作の話を書いてた。箸にも棒にもかからないような私の文章に、ひとつふたつの反応があるだけで、幸せだった。それからずっと時間が経って、Vtuberとしての活動を盤石にするために、小説っていう自分の個性を掘り起こした。でも、一度捨てたからだよね、私のお話を作る力は錆び付いて、もう使い物にならなくなってた。昔とは比べ物にならないくらいファンがいる状態で、強引に絞り出したお話を見せる勇気がなかった。
私は戻れなかった。ううん、一度は引き返したよ。昔のファンコミュニティを覗きに来て、当時どうやってお話を生み出していたか思い出そうとした。そこでまたあの人を見つけた。
思えば私がお話を書くようになったのもその人の影響だった。その人は【バーチャルシンガー】さんに関するいろんなものを書いていた。小説、絵、そして……詩。
当時は素敵だな、で終わっていたはずなのに、今この詩を読んでると、びっくりするくらいいろんなことが頭の中に浮かんできた。
私は急いでその想いを書き記した。でも、少しでもその詩から離れた途端に私の文字が死んだように動かなくなった。私の物語は、この詩という土台なしでは立つことすらできなかったんだ。
この詩が私のものだったら。
私が産み出したものであったら。
そう思って、そこには戻らなかった。持ち帰ってしまったんだ。
小説は信じられないくらい順調に書けた。最高の詩を踏み潰しているというのに、それが強固な土台であったために”私の”自信になってしまった。こんなもの、どこまで行っても盗作でしかないのに。罪悪感はすぐに薄くなった。
…【アカウント凍結】さんの投稿見て、ようやく正気になった。私はなんてことをしてしまったんだって。取り返しのつかないところまで来てしまった、って。
私は罪悪感とともに、激しい焦燥感に襲われた。今すぐあの詩なしで書かなきゃって。でも、みんな知っての通り、あれから1文字も書けなかったよ。いや、文字単位でなら書けたかな?意味のない、本当の意味で死んだ言葉たちが、ただメモ帳アプリに横たわってるだけ。書くなんて以前の問題だよね。
書けない。私はもう完全に、私をなくしてしまった。今さらどこにも戻れない。居場所は全部、私が自分の手で壊してしまった。
……これは贖罪でも告白でもなんでもない。前のメン限と同じ、ただ吐き出したかっただけ。【アカウント凍結】さんに謝るのだって、自己満足の手段。
勝手な人間でしょ?これが私の正体だったの。全部失くして、初めて自分の正体を自覚したってわけ。
私はもうがんばれない。
いや、”がんばろうとしない”…かな。
あなたの記憶に、世界一身勝手なVtuberがいたことだけ刻んで、私はいなくなるよ。
