大平温泉 滝見屋2
さいごに巨大な岩の下をくぐって、秘湯へと通じる吊り橋を渡る。
吊り橋からの渓谷の眺めは最高だ。
そして滝見屋に着いた。
大女将に立ち寄り湯をお願いした。立ち寄り湯は渓流横の露天風呂となる。
露天風呂へ急ごう。
早速、入湯だ。湯加減は40度ほどで丁度良い。源泉は、塩ビパイプで引っ張ってきて露天風呂のまん中から自噴させている。50度以上あるだろうか、結構熱い湯だ。湯温をチェックしに来た若旦那と話をしたら、源泉は渓流の中から湧き出しており、そこに鉄パイプを打ち込んで引いてきているそうだ。
カルシウム-硫酸塩泉とあり、胃腸に効くことでも有名な湯という。仄かな硫黄の香りがする気持ちのよい湯だ。透明で優しい肌触りのこの湯は、まさに最上川源流に降臨した「天女」の湯である。
この神域といっても良い渓谷奥の秘湯を独り占めする経験は何物にも代え難い。
霧が更に濃くなってきた。暗くなるまでに下山しなくてはならない。後ろ髪をひかれつつ仙境の湯宿を立ち去ることにした。
この夢のような渓谷にはまた来ればよいのだ。そう思った。名残りを惜しみつつ、みかえりの坂をゆっくりとのぼっていくと、秘湯は深い霧の奥に消えていった。
小一時間もたったころ、霧の向こうにようやく外界がかすんで見えはじめた。
霧に包まれた渓谷をぬけて峠を越えると、私たちの世界は快晴だった。
家に帰って『大平温泉滝見屋』を検索してみた。しかし、いくらさがしてもそんな秘湯はなかった。あの日、深い霧の中をたどりついた宿はブロンプトンが導いてくれた幻の秘湯だったのだろうか。
(完)
滝見屋はこちらです(実在します)。いつかぜひ訪問してみてください。