The ABC Murders

半ば諦めていたのだけどNHK BSプレミアムで放送してくれたマルコヴィッチがポワロ！の「ABC殺人事件」、とても良かったです。良過ぎて毎週一話ずつ楽しんだ後に３話一気に見直した位に気に入りました。

ドラマ冒頭、白くなった髭を見苦しく黒に染め老齢に抗おうをするポワロが警察から冷たくあしらわれ、更に久しぶりに逢いに行った優しき理解者であるジャップが死んでしまうと言う衝撃のシーンから始まる所で、これは全く違う感じですぞ！とワクワクしました。。時代は移り変わりポワロの時代もとっくに終わっていて、皆の記憶からかつての名声も栄光も忘れ去られつつあり、更には外国人が一様に疎ましく思われている時代と言う事もあってポワロに対する世間の目は一段と冷たく厳しく、更に原作ではべったりのヘイスティングスも出て来ず、後任のクローム警部にはベルギーの過去まで追求され、自身も頭にこびりついたままのベルギー時代の残像が蘇りそれに苦しみながら孤立無援のまま事件と向き合っていく事になります。

寡黙で終始どこか物問いたげなもの哀しげな表情ではあるものの、その眼差しはしかしどこか優しく慈愛に満ちていると言う今までとは一味違うポワロをジョン・マルコヴィッチが好演しています。そんなポワロを最初は毛嫌いするジャップ警部の後任、見栄っ張りでカッコつけで自信過剰なクローム警部も３話の間にずんずんポワロに信頼を寄せて行く工程もとても良い。そのクローム警部を演じるのがこれも意外な所で最初は全然判らなかった（ハリポッターシリーズは１で寝過ぎて駄目だったので何も観てないんだけど）ルパート・グリント。

原作には無い脚色が盛り沢山で、ドラマと原作の違いを挙げると切りがないのだけど、(*1)、特に私好みに変えられていてとても好きだったのが、D (*2) の殺人事件の舞台と設定が暗い映画館からドラマ受けする小劇場に変わっていた所。腹話術の人形 (*3)って本当に効果的だし、駅に貼られているドンカスター競馬のポスター、劇場「DONCASTER EMPIRE」の出演者と演目の文字を並べただけのポスターとか衣装とか小道具とかも一瞬しか映らないのにちゃんと作られていて好きです。

本当にどうでも良い点として、このドラマを観た後目玉焼きはもう食べられないと思った人が続出したとかしないとからしいのですが、私は別に平気で、私はむしろ皿にクロワッサン山盛り積んでピッチャーに入れたオレンジジュースと共に食べたくなりました。

ところで原作ですが、ドラマで後一話と言う所だったのだけど図書館から届いてしまったので先んじて読んでしまいました。二回位読んでるしドラマもスーシェ版で見てるはずなんだけど全然原作思い出せないのでとりあえず借りて読んでみようと思ってとりあえずドラマのとこまで、と思い読み始めたら止める事等出来なくて最後まで（判ってはいたが）。後１回残して読んでしまったのは特に気にならなかったと言うか、先に読んでるから楽しめたと思う箇所もあったので良かったですけど、ネタバレを嫌う方は矢張り最後まで観てから読んだ方がいいかとは思います。

ドラマと原作は筋をさらってあると言った程度で、雰囲気も犯行の動機から登場人物の背景を含んだ筋書きも全くの別物と言った方が良さそうです。ドラマの方が重くかなりダークに様変わりしているけど、でもちゃんと原作にのっとってる部分があって、逆に原作読んでこそ判るその替え方が面白いなと感じたり出来ました。

翻って原作の方はヘイスティングスが書いている形式になっており (*4) 、とても軽い。こちらではポワロは誰からも疎まれず人気探偵のままですし、しかも連続殺人事件が起きている／起ころうとしているのに皆で会議やら口論やらしていて、ワイワイガヤガヤ、ジョークも交えながらで何だかとっても賑やかで楽しそうです。

ドラマが気に入ったと言う方も不服と言う方も、原作を読んでみてここまで変えられるのか〜とその違いを楽しんでみると言うのもまた乙なものだと思います。

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The ABC Murders | 2018 | UK

★★★

John Malkovich as Hercule Poirot

*1: ポワロの過去は勿論、A.B.C.のキーパーソンとなるカスト氏が原作の軽いハッピーな結末とは全然違いあまりに哀しい。そのカスト氏を想う悲惨な人生でも純粋な心を持ち続ける大家の娘リリー（大家を演じるのがシャーリー・ヘンダーソン！）、それとは反対にこれからも綱渡りをしながらも図太く生き延びて行けそうなしたたかなソーラ・グレイ等々、その後の一人一人の人生も気になってしまう位細部まで気を遣った作りになっている。

*2: ポワロへの挑戦状、「Ｄ　Ｄ　Ｄ」って打って「どん　どん　どん」ってタイプライターの音が鳴ってからのタメの「DONCASTER」っての、好き！

*3: 目がどんどん開いていくアレ、目のうるうる具合も相まってゾワゾワした！

*4: ドクター・ワトソンが書くシャーロックホームズ風