腎臓病診療の現実、収入が健康を決める
「腎臓を治す薬は無いのか?」
「腎臓を治す薬は無いのか?」
「⚪︎⚪︎先生の書いた本ではキノコを食べれば治るって書いてあるんだけど」
「よくわかんないけど治んないんだったら薬飲みたくない」
「また薬か、高いから減らしてほしい」
どれも外来で何度となく色々な患者さんから実際に言われた言葉です。
私は腎臓内科医ですので、当然ながら腎臓が悪くなった方をたくさん診ています。
最近ではSGLT2阻害薬やMR拮抗薬など良い薬が出てきております。
一昔前まではそもそも慢性腎不全に効果がある薬なんて無かったんだから、これはとても画期的なことです。
そんな良い薬があるんだったら使わない手は無いと思いますよね。
ところが未だに医師と患者の間には認識の大いなるずれがあり、冒頭のような反応をされます。
これにはわれわれ、患者双方に問題があるのではないかと考えています。
収入と社会的地位が低いと腎臓が悪くなる
収入や社会的地位と健康状態の悪さは相関する。
こんなことを表立って言えば炎上しかねない発言かもしれません。
しかし、これは事実です。
臨床をやってる先生ならば肌感覚で理解できることかと思います。
実際私が診ている患者さんの中には、仕事が忙しくてうつ病で働けなくなった人、発達障害を抱えている人、生活保護で透析を受けている人、そんな人たちがごろごろいます。
ファクトとして慢性腎臓病は所得が低い方が男性で1.72倍、女性で1.39倍進行が早いという論文が出ています。
これ、なかなか衝撃的なデータではないですか?
もちろん女性の場合専業主婦の割合も多いから独身かそうでないかでも変わってくると思いますし、世帯収入で見ないと意味ないんじゃないかという話もあるかと思いますが、事実として低収入は腎臓が悪くなりやすいのです。
低収入腎臓病患者は最終的に透析になる
慢性腎臓病が悪化した先に何が待っているかというと、末期腎不全、つまり透析です。
もちろん腹膜透析や腎移植という選択肢もあるのですが、日本では血液透析(いわゆる透析)を選択される割合が9割近くということを考えると無視できない数字です。
さらに残酷なことを言いますと、日本では腎移植は生体腎移植がほとんどであり、この生体腎移植には妻や兄弟など腎臓を提供してくれる相手が必要です。
実際には、低収入で腎臓が悪くなり透析が必要になる方は、未婚の割合も多く腎臓を提供してくれる相手もいなく、脳死ドナーから腎臓の提供を受ける献腎移植も10年以上待つのがざらですから、現実的に腎移植を諦めざるを得ないケースの方が多いのです。
我々には関係ないことだとおもいますか?
これはそうとも言い切れません。
なぜかというとこういった血液透析の費用はほとんど公的保険で賄われているからです。
日本で生活保護を受けている方の割合は1.62%なのに対し、透析患者を対象にしたアンケートにわると透析患者で生活保護を受けている方の割合は7.2%と何と4倍以上になります。
収入に関しては世帯収入200万円未満が25%で、65歳未満では生活が「非常に苦しい」と解答しているのが34.9%と高い数字になっています。、
https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_index_public/no_37-2_sv.pdf
医学の問題ではなく社会の問題である
腎臓病の大半は元はと言えば、糖尿病や高血圧症です。これは薬物治療と同時に生活習慣、食事・運動習慣の改善が重要になってきます。
結局は生活習慣病なんだから、悪くなってもその自業自得でしょ?
そう感じる方も多いかもしれませんが、外来で食事指導をしていると感じるのは、本当にその人自体に問題があって健康を損ねている割合はそこまで多くないということです。
話を聞いてみると、若い人の場合は仕事が忙しくてとても自炊の時間がとれない、生活習慣が不規則でコンビニ弁当が主食になってしまっている、運動の時間もとれない、そんな方たちばっかりです。
そして、お金がないためブルーワーカー的な仕事につかざるを得ない、疲労とストレスで過食に走る、もちろん高血圧や糖尿病は悪化しますが、お金がないため薬の費用すらも満足に払えない・・・。
これはもはや医学の問題ではなく社会の問題なのです。
考えてみれば当然で、毎月の支払いにすら困窮するような、経済的に弱い人間、来年の暮らしも想像できないような方々に、「このままだとあなたは5年後に透析が必要になります」と言って響くでしょうか。
それどころではないという話になるでしょう。
そんな方々を前にして診察室で白衣を来て向かい合い、食事に気をつけて、ストレスを避けて…問く外来診療の日々の何と空虚なことか。
問題点は明らかです。
しかしそれを解決する術は見当たりません。
悶々としながらこの文章を書いています。