2022/12/6(火) FIFA WORLD CUP QATAR 2022 ROUND16 ポルトガルvsスイス 〜安西先生になれるのか〜
みなさんごきげんよう。アジアンベコムです。このような企画▼に参加しており、私は決勝トーナメントではポルトガルを担当します。担当チームが残れば記事を書き続けるシステムです。
1.ゲームの戦略的論点とポイント
ポルトガルは最終節でターンオーバーを行って韓国に敗れたものの、グループステージ2戦で早々にラウンド16進出を決めています。懸念は、初戦のvsガーナでスタメン出場の13ダニーロペレイラ、韓国戦でスタメンの24アントニオシウバ、このCB2選手がいずれも負傷でメンバー外。ルベン ディアスは健在ですが連戦下でのペペのコンディションがキーになるかもしれません。
スイスはグループステージでは1-4-2-3-1と、アンカーを置く1-4-1-2-3のオプションを披露していて、中盤のフロイラー、ジャカ、ジブリル ソウはそれぞれどちらでもプレーできるようです。
✔︎スターティングメンバー
ポルトガルは、グループステージからSBのカンセロ、3試合連続出場だったアンカーのルーヴェン ネヴェス、そしてクリスティアーノ ロナウドがベンチスタート。初戦で負傷したオタビオが中盤センターに復帰し、トップには21歳のゴンサロ ラモス、右SBにはジオゴ ダロト。
スイスは3試合スタメンだった右SBのビドマーがメンバー外、エジミウソン フェルナンデスが右WB、ジャカがアンカーに入る1-3-1-4-2を採用しました。4バックのシステム(両ワイドが下がって中盤5枚)だとジャカはアンカーではなくインサイドハーフでしたが、中盤3枚で守る3(5)バックだと両脇をフロイラーとソウで固める起用法になるのでしょう。どうでもいいですが、スイスもチュニジアと同じくGKを4選手登録してるのはどういった理由でしょうかね。
✔︎最近考えていること
試合と直接関係ないですが、最近このようなフレームワークを簡易的に考えています。ガチガチではないですが、なんとなくこんな項目を意識しながら試合を見ていきましょう。
2.試合展開
✔︎構図の確認(ハイプレスに勝機を見出したいスイス)
開始直後にポルトガルのフェルナンドサントス監督のコメントで、スイスとの力関係は互角とする話が紹介されていましたが、スイスとしては、ポルトガルの相手ゴール前での強度やクオリティを警戒してのシステムだったり、ゲームプランだったと思います。
前半開始から、ポルトガルのボール保持に対してスイスはマンマーク基調で高い位置からプレッシング。このプレッシングに関しては、前線の枚数を調節しながら行っていたので、ポルトガルがグループステージ同様にアンカーを置くシステムだったとしても、枚数を調節してマンマークで捕まえられるようにしたのでしょう。メンバー的には、スイスは複数のシステムに変形できる(ポルトガルがどんな配置でも捕まえられる)メンバー構成になっていました。
最終ラインは完全に同数にするのではなく、ボールと反対サイドのWBが戻って4枚になる意識は強かったと思います。
このハイプレスの形から、4分にはGKジオゴコスタのフィードをフロイラーが回収。そこからゴール前まで素早く運び、最初のシュート機会はスイスでした。11分にもシュートまで到達できなかったものの、ポルトガル陣内のペナルティエリア付近でボールを回収しかけるなど、スイスの前線守備はハマっていました。
ポルトガルは、両SBが開いてbuild upにおける横幅を確保。これにCB2人と中盤センターの2人、GKを加えた7人でスイスのpressingを回避できるかを探る、人数では7vs6の構図になります。しかしポルトガルがクリーンにスイス陣内に侵入し、強力アタッカーのクオリティが発揮されるのは、試合開始から10分ほどが経過した頃からでした。
✔︎露骨なミスマッチから前進
一方のスイスのボール保持の局面を確認します。スイスはマイボールになると、ロドリゲスが左CBからSBの位置に移動する変形を行います。これはポルトガルが1列目3枚で対応してくることを見越して、ミスマッチを作れるように、ということでしょう。そしてスイスの右は、CBアカンジとWBフェルナンデスが遠すぎる(WBが高めに張る)こともあって、スイスは多くの局面で左から前進を試みていました。
ポルトガルの前線は、スイスの変形があっても自分の「対面の選手」は見失わないのですが、それでもロドリゲスはブルーノから離れてボールを保持できます。
そしてロドリゲスの前方、ポルトガルの右SBが担当するエリア付近で、バルガスに加えてシャキリが流れてくることで露骨なミスマッチを作るようになっている。ポルトガルがマンマーク気味に捕まえようとすると、まずここをどうするか考えなくてはなりません。
7分にはこのミスマッチを活かして、バルガスのconducciónからスイスが前進に成功するなど、序盤はポルトガルが対応しきれずスイスがこのマッチアップによるメリットを享受します。
しかしスイスはこの形のbuild upの出口がシャキリとバルガスだとして、この2人が同じサイドにいると選手特性が被り気味、相互作用もあまり感じられず、どちらかが、ポルトガルDF3人にサンドされているエンボロに対してクロスボールを放り込む単調なフィニッシュに終始します。
✔︎スキャン完了で牙を剥くクラック
11分頃にポルトガルが動きます。まずボール保持の際、カルバーリョがCBの間に入って後ろ3枚に。スイスはこの形に対して特に決めていなかったようで、pressingは弱まって徐々にミドルブロックへの撤退を余儀なくされます。カルバーリョとオタビオがコミュニケーションをとっている姿があり、おそらくカルバーリョが「俺が下がる」と言っていたのでしょう。
そしてトップ下のベルナルドが主に右サイド、スイスの左IHのフロイラーの外側に出てくる。ここでもスイスはpressingのマーク関係が変わる(ジャカが見ていたベルナルドがフロイラーにスイッチするのが最適)のですが、ベルナルドへのフロイラーの監視はそこまでキツくないし、多少フロイラーが意識してもベルナルドは1人くらいは剥がせるので、彼を起点にポルトガルは前方向にボールが動くようになります。
16分にポルトガルは初めてボックス内に侵入。左でブルーノがクリアボールを拾って絞っていたゲレイロへ。ゲレイロの縦パスにをベルナルドがライン間で受けてターン1発で迎撃のアカンジを置き去りにし、ボックス内からグラウンダーのクロスボール配球という流れでした。
そしてこのプレーをスイスがクリアで逃れた後のスローイン。フェリックスのパスから、ゴンサロ ラモスがニアのトップコーナーを抜くゴラッソで、ポルトガルが最初のシュートで先制。一気にポルトガルのゲームになっていきます。
1st DFが機能しなくなったスイス。撤退して5バックの1-5-3-2で守りますが、ポルトガルは5バック相手でも苦労しない。色々やり方がある中で、一つはポルトガルは両翼に張り幅をとるSBに素早くボールを動かして、スイスDFをスライドさせスペースを突きます。
スイスの5バックはよく言えば横幅がコンパクトで組織的、ボールサイドはケアしていたものの、ポルトガルのサイドチェンジをあまりケアできておらず、そうなると反対サイドに振られた時に絞っていたWBのスライドが遅くなる。そこで時間を得たゲレイロやダロトが引きつけて更にスペースを作ることで、5バックで守る優位性が徐々に希薄になります。
そして33分にCKからぺぺのヘッドで2-0。マークはフェルナンデスでしたが、見失ってトップスピードでゾーンの間に入られてしまいました。
✔︎スイスの僅かな突破口
2-0となった後、前半終了までの10-15分ほどは、ややポルトガルが緩んでスイスが前半最もポルトガルゴールに迫った時間帯でした。
ポルトガルはベルナルドを前に出した1-4-4-2気味の形で守備をしていて、これが意図的な変更だったのか、それとも試合開始時のやり方がイレギュラーだったのかはわからないですが、スイスがロドリゲスのポジションを再修正すると前2枚での守備はハマらず剥がされて、更に両ワイドも前で守っているものの、2トップに対してカバーリングポジションを取るようなdisciplineもなく、前4人が剥がされて中盤センターの2人が剥き出しになります。
38分には初めて、右WBのフェルナンデスに高い位置でボールがデリバリーされ、ようやくWBを置くシステムの優位性が活きる形から、低くて速いクロス。ジオゴコスタが防ぎましたが、ゴール前にあまり枚数がないスイスには、速いクロスボールでポルトガルDFが整う前に強襲する選択は正解だったでしょう。
もっともオープン気味になると、41分にはポルトガルがスペースを使って逆襲します。ベルナルドのconducciónからスルーパス、ラモスのシュートはゾマーが左手1本でストップして踏みとどまります。
✔︎試合を決めるラッシュ
後半頭から、スイスはシェア⇨キュマルトに交代。種明かしですが、スイスはシェアのほか、欠場したヴィドマーほか数人が「体調不良」だったとのことで、3バック(5バック)の採用はシェアのコンディションも考慮したのかもしれません。キュマルトもバレンシアで試合に出ている選手なので、そっちを起用すればという意見もあると思いますが。
そしてシャキリが右、ソウがトップ下に移動する1-4-2-3-1に配置を変更します。システム的には完全なミラーではないですが、互いにSBとSHがマッチアップする機会が多くなります。
スイスは「いつもの」1-4-2-3-1に変えて、ボール保持時にはジャカが下がって受ける、ロドリゲスが高い位置をとる変形をします。
しかしポルトガルの3点目は、ロドリゲスがオーバーラップして完全にバルガスを追い越す位置にいた時に、ジャカの縦パスを収めたエンボロから、オタビオがボールを絡め取ってからのカウンター。最後は、ロドリゲスが戻りきれず大外でバルガスがダロトと対峙しますが、ダロトの仕掛けから得点が決まりました。
54分にスイスはソウ⇨セフェロビッチ、フロイラー⇨ザカリアの交代で、2トップを並べる1-4-4-2に。最後の賭けに出ますが、直後にポルトガルがゲレイロのゴールで4点目。
ルベン ディアスがファウルを受けてのリスタートからでしたが、ゲレイロがこの時、この試合で初めて内側にポジションを取ります。これは対面のシャキリも無警戒で、ミラー気味のシステムでマークを決めてハメようとしていたスイスは誰も見ることができない。そのままインナーラップしたゲレイロがフリーでシュートまで持ち込みました。
✔︎最終スタッツ
3.雑感
まずスイスがどんな手を打っても、ポルトガルの選手は全く混乱することなくポジショナルに最適解を何度も打ち返してきたのは、彼らが日頃プレーしているステージを考えたら当然なのですが流石と言えるでしょう。フランスのグリーズマンにも言えますが、GKのバックパス処理が計算できるチームだと後方がCB2人+中盤センター2人+GKの5人で回せて、そこにフリーマンを入れると、枚数が多い(後方2-3とか3-2とか)状態よりもフリーマンも動きやすく選手特性を活かしやすいように思えます。
ポルトガルは次はモロッコ。スペイン-モロッコを観た感じだと、おそらく低めのブロックを組んでデュエル勝負に持ち込む気がしますが、いずれにせよクリロナとフェリックスはどちらか1人にした方が良さそうな気がしました。
ポルトガルの前線守備はそんなに丁寧ではなかったけど、それでもクリロナよりはラモスの方が機能させやすいでしょう。長期政権のフェルナンド サントス監督は、今後のトーナメントでもスーパースターを秘密兵器にできるでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。またすぐ逢うけどね。