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【病院事務長実践書を作成してみる】④事務長から見た病院経営コンサルとは

 この記事は、決して病院経営コンサルタント(以下、コンサル)のすべてに対して、苦言を呈しているわけではありません。しかし、自らの提案やアプローチが病院の要件とミスマッチであることを自覚していない質の低いコンサルが存在することも事実ですので、質の低いコンサルとは付き合わないという覚悟を持っていただきたいと思います。


1.病院がコンサルに”求めること”はなにか

 病院がコンサルに求めるのは、主に経営課題解決です。つまり、多数の課題の中から、優先順位の高い課題を的確に抽出し、課題解決の糸口を発見し、課題解決への道筋をつけて、病院運営を良い方向(増収・増益・体制確保・継続性確保等)へ向けてほしい、と期待します。

2.コンサルの”できること”とはなにか

 コンサルの”できること”とは、病院の課題に適した解決手法の選択と導入および定着支援を行うことです。端的に言うと、コンサルは、病院運営の課題解決手法のパッケージを商品としており、ビジネススキームは、そのパッケージの売りこみです。

3.病院が理解しておかなければいけないこと

 病院がコンサルに依頼する際に、知っておくべき基本的なこととは、以下の4点です。
(ア)  課題解決手法を実践するのは、コンサルではなく病院スタッフである
(イ)  課題解決手法を選択するのは病院になるが、選択までのプロセスはコンサルが有料で行う(経営者・管理者・スタッフへのヒアリングや財務・業務等の実地調査等)
(ウ)  課題解決手法は多数あるが、コンサルによって得手不得手があり、得意分野に誘導する傾向がある。
(エ)  課題解決手法の導入と定着には時間と手間がかかるが、判走支援するコンサルは少ないか、あっても別サービスになる(プロジェクト管理支援という別のスキルが必要なため)

4.病院が注意しなければいけない点

 前述のように、合理的な解決の実現と継続を求める病院と、解決手法を売り込むコンサルの間ではギャップがあります。スタッフの体制づくりと目的的な推進が非常に重要であり、失敗の主たる原因になります。
実際のところ、質の低いコンサルは、滞りや期待する効果が出ないこと原因を院内体制に押し付けがちです。さらに、それを正すまたは避けるという名目で、管理者教育等の研修(当然、有料)を勧めるでしょう。囲い込んでがんじがらめにして、しっかり絞りとろうという魂胆にも思えます。
また、解決手法の選択は、コンサルは通常は、合理的な演繹的なプロセス(ヒアリング・調査)をもって、解決手法の提案を行います。が、病院の課題は複合的で課題が相互に絡み合っていることが多いため、短期間で有効な解決手法を正しい優先順位を示して導き出すのはなかなか困難です。ですから、コンサル提案は、コンサルの得意分野に、恣意的に選ばれている可能性も大いにあります。合理的・演繹的な手法とみせかけて、恣意的・帰納法的な結論に導く手法は(質の低い)コンサルの専売特許かもしれません。

5.では、コンサルを使わなければいいのか

 使わずにすむのであれば、それに越したことはありませんが、目的的にコンサルを利用することで、首尾良く課題解決の道筋がつくこともあります。
 コンサルの活動範囲をコンサルの得意分野である経営戦略構築支援や経営者の意思決定支援では大きな問題はないと思いますが、部署間・職種関間の調整が必要な手案に関しては、イニシアティブを渡さずに、慎重に進めるのがよいと考えます。
現場の業務ヒアリング、調査、報告書作成などは、多くの工数が稼げるのでコンサルはやりたがりますが、課題抽出や解決の策定については、業務と対策の優先順位を理解している院内体制で自ら行う方がはるかに正確に早くできます。調査報告書や対策計画書を作成するところは、コンサルの力を借りるのはありだと思います。
 対策の検討においては、コンサルは意識改革や課題解決の管理者向け研修等を盛んに売り込んで来るでしょう。しかし、受けなくてもまったく大丈夫です。カリキュラム概要等をコンサルに依頼してサービスで入手しましよう。該当する課題解決手法に関する書籍が大きな書店やインターネットで入手可能ですから、試し読みをしてわかりやすいと思うものを購入して、院内でまわし読みしてください。多くはそれで事足ります。コンサルの「お試しで初期研修を廉価で受講可能」などという誘い言葉にのってはいけません。初期研修だけでは済まずに「ステップアップ」「エスカレーション」という名目で中長期カリキュラムに絡めとられることになるでしょう。
 コンサルの専門性は上流工程あります。病院経営の特性を理解しているコンサルであれば、有効なレポートが得られるでしょう。しかし、現場ヒアリングや調査による課題抽出や管理者研修等は一般的な企業向けメニューを医療現場に適用したところで、なぜ病院ではその課題が生じがちなのかを理解していないため、的外れになりがちです。
 結果、方向性はよいが、現場課題とはずれた進め方になり、しばらくすると現場が疲弊して立ち行かなくなります。その時点で引き受けざるを得ない事務長はたまったものではありません。 言い方を変えると、経営者をその気にさせるところまでは、コンサルの力を借りるのは良い方法でしょう。コンサルとは。軒先までだけで、玄関から中には信頼できるまでは入れない気構えで、慎重に付き合うべきです。コンサルとの線引きは、事務長のふんばりところ、重要な業務です。



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