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【事務長業務実践書を作成してみる】⑪損益計算書から利益構造上の課題を検証するのも事務長の業務

 事務長業務はトラブルバスターと強調してきましたが、延髄反射的な業務だけでは経営を支えられません。頭脳プレーも重要です。

1.損益計算書を検証するのも事務長の業務 

 事務長業務は課題対応が重要な業務です。課題抽出においては、もちろん現場からの声がとても重要です。そして、現場の声に対して対応しているだけで、時間がどんどん過ぎていくのもまた事実です。しかし、課題抽出は現場課題以外にもさまざまありますが、収益構造上の課題も非常に重要です。
 医療法人は非営利法人ですが、企業であるため継続しなくてはなりませんので利益を安定的に出さなければいけません。従って、利益構造をしっかりと把握し安定化の方向へ舵を切るのも事務長の業務になります。
 従って、損益計算書(PL)を読み、利益構造を理解して、なにが問題点なのかの仮説を考えて課題を予測する事はとても重要といえます。

2.損益計算書の検証、ふたつのアプローチ 

 利益率(経常利益÷医業収益)が5%未満の場合を想定して、どの様な視点・考え方で収益課題を検証するのかを、述べていきます。
 病院は診療報酬/施設基準で収益もコストも定まる特異な収益構造の労働集約型事業です。
 従って、検証のアプローチは以下の二つになります。他の事業ではこう単純にはいきません

A:コストが収益に対して高いのではないか(収益を是としてコストを疑う)
B:収益がコストに対して低いのではないか(コストを是として収益を疑う)というふたつの視点で見る必要があります。

 二つは同じように思えますが、アプローチにより検証内容が異なります。

3.コストが収益に対して高いのではないか(収益を是としてコストを疑う)  

 Bの収益を疑うアプローチは医療・医業の知識が前提であると誰でもわかりますし、Aのコストを疑うアプローチは他業種との共通点も多いため、コストカッターのコンサルティングがひきもきらずやって来ます。
 が実は、コストの部分もやはり、医療や医業を理解していないと枝葉末節に陥ってしまうため、医療や医業への理解を前提に、コスト構造の仮説検証と課題抽出を行い、優先順位をたてて対策を検討しなければいけません。 

①「人件費が過剰になっているのではないか、削れる人件費があるのではないか」

  まず、医療の場合は、収益は診療報酬が大部分を占める為、患者の数
× 診療単価という指標が重要ですが、その患者の数は医療法で定められた医師や看護師等の配置数によるため、「人件費」という主要コスト(病院だと一般的に60%―70%)と直結します。
 しかし、患者数と職員数の変動の動きは異なるため、職員数がどうしても過剰になる傾向があります。
➡仮説「人件費が過剰になっているのではないか、削れる人件費等の経費があるのではないか」
 病院側は1か月の変動労働制をもって、休みや急な病欠等を考慮しつつ、最小限の体制で運営したいところですが、現場は職員側は余裕はあればあるほどいいので、施設基準の範囲内でもタイトな体制を維持することに対する不平不満・抵抗は大きいと言えます。それが離職率上昇に繋がると結局採用コストが嵩み利益は圧迫されることになります。体制を適正なコストで維持する方法が重要になります。

②「薬価の値引きが十分ではないのではないか、いつのまにか問屋主導で問屋に都合の良い価格体系をおしつけられているのではないか」

 次に大きなコストは材料費になります。その中でも、大きなのは診療材料と薬価になります。特に、薬価の仕組みから、薬価が高いと診療単価も高くなるため、薬価以外の経費項目(人件費含む)の比率が低くなるなど、単純な比較を困難にすることにも要注意です。
 また、薬の流通においては、メーカーと問屋の関係で問屋が強い為、問屋がつながって値引きを抑制する風土が一部の地域で残存しています。
➡仮説「薬価の値引きが十分ではないのではないか、いつのまにか問屋主導で問屋に都合の良い価格体系をおしつけられているのではないか」

③「大局的でなく目先の視点または慣習的な考え方で、減価償却費を計上していないか」

 コストでは減価償却費を正しく理解する必要があります。減価償却費は、利益の観点とキャッシュフローの観点で、計上に中長期で見た場合に今期の計上が適正かどうかの評価が重要です。ただし、戦略的に法人税を考慮して当該期の利益を圧縮することもあります。
➡仮説「大局的でなく目先の視点または慣習的な考え方で、減価償却費を計上していないか」

4.収益がコストに対して低いのではないか(コストを是として収益を疑う)

 コストを是として収益を疑うアプローチにおいては、最も割合が高い診療報酬が対象になります。診療報酬は「体制・設備・診療実績・患者の状況」から定まるため、コスト構造において大きな割合を占める現状の体制・設備が有効に利用され、適正な収益を得られているかの検証が必要になります。

①「診療報酬漏れ、もしくは、消極的な姿勢が原因で、病院経営上の適正な診療報酬になっていないのではないか。」

 施設基準で定められた体制と設備の確保と維持の為に発生しているコストに適した収益は、病院運営に大きく左右されます。
 ➡仮説「診療報酬漏れ、もしくは消極的な姿勢が原因で、病院経営上の適正な診療報酬になっていないのではないか。」
具体的には以下の視点で検証するアプローチが必要です。
 ・患者の受入に障害要因はないか
 ・診療報酬の適用に漏れや不足が無いか
 ・返礼査定が過剰になっていないか
 ・消極的な保険請求に陥っていないか
 ・体制や設備からもっと適した収益の高い入院料や加算へ移行できないか

②「大型投資の目的が達成されずにコストだけを背負う形になっていないか、小~中型投資でも十分な効果が得られていないのではないか」 

 コストを是としたときに、診療報酬の次に疑うのは、投資が適正な収益をもたらしているかという点になります。
➡仮説「大型投資の目的が達成されずにコストだけを背負う形になっていないか、小~中型投資でも十分な効果が得られていないのではないか」
 特に、大型投資は減価償却を伴う中期的なコストになるため、収益もそれにみあった収益であることが望ましくなります。つまり、なんの償却なのか、それはいつ終わるのかを把握して、それに見合う直接的な収益や間接的な価値が生み出されるように病院運営上で中期的に留意することが大切になります。
 具体的には、以下のような状況を明確にして、戦略的な対策を至急に計画実行することが必要です。
 ◆高額医療機器に投資したのに、高い保険請求区分に移行するタイミングが遅かった、または診療体制が確保できず十分にかつようできていない。
 ◆電カルの投資効果が見える形で発揮できていない、又は測定・検証していない


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