りんご飴の記憶
祭りに香具師は欠かせない。
何年かに一度、大ヒット作品が生まれる。
そんな商品は、祭りの会場に向かう途中ですれ違う人が、みんな持っている。
私はそれを見て、興味津々。
何だあれは。
早く会場について、その正体を突き止めたい。
そんな気持ちになり、テンションが上がる。
ここのところ、もう何年も祭りに行っていないから、最近の事情は知らない。
でも、突然生まれるヒット作品は、確実に祭りへの高揚感を盛り上げるものだった。
初めて「あれはなんだ。ほしい!」となったものは綿菓子。
ピンク色をしていて、ふわふわの雲みたいなもの。
それがアニメのキャラクターのついた袋に入っている。
秘密のあっ子ちゃん。
仮面ライダー。
おいしそうというより、初めて見るものへの、関心が強かった。
安くはなかったと思う。
でも粘りに粘って、買ってもらった。
大切に大切に家に持ち帰った。
袋から取り出したそれは、舌に触れると直ぐに溶けていく。
指に触っても溶ける。
あんなに大きかったのに、食べ始めるとどんどん小さくなる。
甘いと言えば甘い。
でも味わう間もなく、すぐに無くなってしまった。
あっけなさが衝撃的だった。
そう。
香具師で売られているものは、出会いの瞬間がピーク。
少し騙されたような物悲しさがついて回った。
そういうものだった。
次に出会ったのがりんご飴。
多分多くの人が、あの年りんご飴を初めて目にしたはずだ。
祭り以外の場で見たことはなかった。
両親も知らなかった。
祭り会場から、いろいろな人が、真っ赤なリンゴを持って帰ってくる。
とてもきれいで、おいしそう。
りんご飴についても「あれはなんだ。ほしい!」が発動した。
会場でりんご飴を探して歩くと、長い列ができていた。
りんご飴は、あの年、みんなが欲しい香具師の販売物ナンバーワン。
爆発的な人気だった。
割と高かった覚えがある。
どうやって買ったのか。
自分の小遣いか。
親にねだったのか。
そのあたりは忘れてしまった。
そんなことより記憶に強く残ったのは、りんご飴の見た目と味のギャップだった。
おそらく、捨てるしかないようなクズリンゴに、真っ赤な飴をコーティングしただけの代物。
表面の飴は甘い。
でも中のリンゴは苦みだけがある。
まずい。
酸っぱくも甘くもない最悪の商品だった。
あんなに楽しみに持ち帰って、全部を食べずに捨てた。
あの年、多くの人がこの悲しさを共有したはずだ。
何しろ大抵はその場で食べるのではなく、楽しそうに持ち帰っていたのだから。
だからあれほど人気だったりんご飴が、次の年からは見向きもされなくなった。
たまに買っている人を見ると「気の毒に」という気持ちで見送った。
食べ物ではないが、「なんだあれは?」と思ったのが、丸めると蛍光色に光るバーの様なもの。
蛍光ライトステックというらしい。
祭りの会場から帰ってくる子供や大人の、手首や、足首がきれいに光っている。
なんだか楽しそう。
蛍光色に慣れていなかった。
しかも、祭りに向かうのは夕方から夜にかけての時間帯。
薄暗がりでヒカルそれは、とてもきれいだった。
祭り会場で、まっすぐの棒を丸めると、蛍光に光り出す仕組みであることを確認した。
大人になっていた私は、もうそれを買ったりはしなかったけれど、蛍光ライトステックが、その年の祭りの主役であったことは確かだ。
多くの子供たちが、あの不思議に光るバーを欲しがっていた。
でも蛍光ライトステックの光は短命だ。
丸めてしばらくすると光らなくなる。
持ち帰って、光の下でそれを見た時、それがただのプラスチックの棒であることを確認してがっかりした子供がたくさんいるに違いない。
今は定番化しているけれど、見た目の面白さに驚いたのがトルネードフライドポテト。
あれを見たときは、もういい歳になっていた。
欲しいとは思わなかったけれど、そのアイディアの斬新さに感心した。
やはり多くの人が買い求め、嬉しそうに持っていた。
ファミリーよりも、カップルに人気のある商品だった記憶がある。
でも実際に食べようとしたら、食べにくそうな商品に違いない。
祭りに香具師は欠かせない。
たこ焼き。
焼きそば。
焼き栗。
ベビーカステラ。
定番商品をきちんと売り続ける人がいる。
でも毎年のように斬新な商品を探してくる人もいる。
外れると見向きもされないけれど、当たると大きい。
香具師の人たちには、だまされた気もするけれど、楽しませてもらった気持ちの方が強い。
最近は香具師が少なくなって寂しいものだ。