多分、トー横キッズ対策
新宿ゴールデン街を見てみたい。
作家たちが、朝まで芸術論を戦わせた町。
きっと雰囲気のある飲み屋街に違いない。
いつも行ってみたいと思いながら、新宿駅で降りる。
でも、結局迷子になってゴールデン街にはたどり着けない。
ところが今回は、息子が案内してくれるという。
誠に心強い。
まず新宿駅に降り立った。
「いきなりゴールデン街に行く?それとも少し街を見てみる?」
「少し歩いてみようか。」
久しぶりの歌舞伎町。
駅から、ドン・キホーテを右手に見ながら歩いていく。
まるで映画の中のような、明るいネオン街。
向こうからやってくる人を避けながら、息子の後をついていく。
しばらく歩くと、その人混みの真ん中に、なんだか意味も無く柵が作られている。
イベントを始める感じでもないが、その柵は明らかに人々の通行を妨げている。
「この柵は何のためにあるのか」と息子に聞いた。
「多分、トー横キッズ対策」息子は短く教えてくれた。
そうなのか。
ここがあの有名なトー横キッズがいるところなのか。
ネットで調べてみると、トー横キッズというのは、「新宿東宝ビル周辺の路地裏でたむろする若者・未成年の集団のこと」と書かれている。
実際に柵が置かれていたのは、新宿東宝ビルの真ん前。
路地裏というより、大通りのど真ん中。
ゴジラヘッドと言われる、ゴジラの頭がビルにくっついた建物のすぐ手前。
多分、大通りが閉鎖されることによって、人々の流れが路地裏に及び、若者たちの座り込む場所がなくなるということなのだろう。
トー横キッズのことは、私も聞いたことがある。
家庭で居場所を見つけられない若者が、逃げ場所として選んだ場所。
ドラマやニュースで見ると、私たちの時代よりもかなり悲惨な家庭が増えている。
家庭内暴力。
家庭崩壊。
今いる家が安全でない若者が、そこに避難してきている。
居場所が見つからない若者はいつの時代もいる。
でも昔よりも、そういう若者の現状は、苦しくなってきているのではないか。
たむろする若者がいれば、その若者を利用しようとする大人もいる。
情報も、家も、お金もない彼らを利用することは、きっと簡単なこと。
そんな彼らを守るために、居場所をなくしたのだろう。
でもトー横に集まることができなくなれば、また別の場所に集まるしかない。
かつて私の歌舞伎町の印象は、風俗が前面に出て、怖い町というものだった。
町に足を踏み入れると、呼び込みの男性から声をかけられる。
そこを足早に通り過ぎる場所という感覚。
でも今回行った歌舞伎町は違った。
ファミリー層はいないけれど、きれいに着飾った若者たちであふれている。
ミニスカートをはいた女の子たちが、店のパネルをもって呼び込みをしている。
それが彼女たちの意思なのか。
大人たちに利用されているのか。
いずれにしても、ミニスカートでいるような季節ではない。
そんなことを思いながら、彼女たちを横目で見て歩いた。
いろいろなことを感じた夜だった。
目的のゴールデン街にたどり着いたが、初めての店に入る勇気はなかった。
でも歴史を感じる建物が所狭しと立っているのを見ることはできた。
ゴールデン街より、街中に立っている娘たちが気になった夜だった。