色黒。中肉中背。60代。職務質問。

色黒。中肉中背。60代。
ジャージ姿に、ハンドバック。
男。
彼が、平日の昼間コンビニエンスストアに行く途中に、何度も職務質問を受けたという話をしていた。

多分色が黒いということと、ジャージを着ているというのが怪しかったのだろうと思うと彼は言った。
本当にそうだったのか。

職務質問はまず、身分証明書の提示を求められる。
コンビニまで行くのに、身分証明書を持っているとは限らないだろう。
でも彼は財布の中に、免許書を持っていたから、それを見せた。
それで解放されるかと思った。
近所に住んでいることが証明されたのだ。
でも次は、長そでの腕をめくるように言われた。
ポケットの中身を見せてほしい。
カバンの中を見せてほしい。
要求は続いた。

腕をめくらせるのは、注射痕を確認するためなのだそうだ。

そんなことが1週間のうちに何度も起きた。
長い時は1時間とか、1時間半も捕まることがあったという。
言葉遣いが悪かったかもしれないと言っていたが、よほど怪しいと思われたのだろう。

同じ警察署の、別の警察官からも声をかけられ、すっかり職務質問を受ける側のスペシャリストになったと話していた。

そんな話があるのかと思った。
私が受けた職務質問は、人生で一度しかない。
18歳の時、軽井沢の駅でハガキを書いていた。
その後も、行き先が決まらない感じで、周辺をうろうろしていたかもしれない。
頭は丸坊主。
体は大きかったが、幼く見えたかもしれない。

「お兄さん何してるの?身分証明書か何かある?」
警察官が声をかけてきた。
それが職務質問と言われるものであることも、よくわかっていなかった。

身分証明書を見せる。
「家出少年が多いんだよね。お兄さんはこれからどこへ行くの?」と聞いてきた。
そうか。私は家出中の子供だと思われているのだ。
正直、その時は行き先を決めかねていたが、これから帰るところですと答えた。
もう少し長野県内をうろうろしたいと思っていたが、このことでテンションが下がって、本当に岐路に着いた。

その後、職務質問をされたことはない。
警察官に声をかけられたと言えば、自転車に乗っているときに、一度止められた。
盗難車が多いということで、本当に自分の自転車かどうかを確認したかったと言われた。
後は、自動車を運転しているときに、交通関係のおまわりさんに、免許書を確認されたくらいだ。
そんなに職務質問など何度も受けるものではないというのが、私の中にある小さな常識だ。

でも彼は、二日に1回くらいのペースで何度も職務質問をされたと言っていた。
平日の昼間に、おじさんが買い物に来ることが怪しいのか。
昼間から、酒を飲んでいたわけでもなさそうだった。
ふらふらしていたのか。
人相が悪いとは思えないが、プロの警察官からすると、怪しく見える人相というのがあるのかもしれない。

幸い彼は、たばこは吸うものの、薬には手を出していないから、長めの職務質問を受けた後、無事解放された。
彼はその話を笑いながらしてくれたが、愉快なことではあるまい。

もう一方で、警察官がまじめに働いていてくれることにも驚いた。
私は声をかけられていないだけで、たぶんどこかで見られているということなのだろう。
これから仕事を辞めて、街の中を徘徊し始めたら、きっと警察官が声をかけて家に届けてくれるに違いない。

日本の治安は、そういう人によって守られている。
でも彼はそんなに怪しいかな?

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