A rolling stone gathers no moss.のA rolling stoneになりたいと思っていた頃

遠い昔、浪人をしていた時にこんなことわざに出会った。

A rolling stone gathers no moss.
転がる石には苔が生えない。

他にもいろいろな訳し方があるかもしれないけれど、私は動き続けていれば、いつまでもきれいなままでいられるというニュアンスでこのことわざを受け取った。
予備校の、覚えておくべき英語のフレーズの一つとしてであったものだけれど、受験用ということを越えて、当時の私には刺激的な言葉だった。
 
なれ合わないこと。
いつもフレッシュでいること。
明日に向かって、前向きであること。

これから、どんな人生を歩きだすか決めかねている私にとって、考えさせられる。
いろいろな意味で素敵なことわざだと思った。
そして自分もこの、転がる石の様でありたいと思った。

実際予備校時代の私はA rolling stoneであっただろうと思う。
いろいろな人の言葉に関心もし、どう生きたらいいかを一生懸命考えていたという記憶はある。
 
でも実際に大学生として生活を始めてみると、そんなことは私には不可能であることがわかってきた。
浪人生は何も持っていない。

だからA rolling stoneであることは簡単にできた。

でも、大学生という既得権を得ると、今ある自分を変えるために大学を辞めるというのには勇気がいる。
変わり続けること。
フレッシュであり続けることは、簡単ではない。

得たと思ったものを、次の瞬間に手放していくような生き方。
それには半端ない努力や、気力がいる。

気が付くと私は変わることをあきらめて、決まった学校、決まった職場で、そのまま長く生きてきた。
同じ仕事を続ける。
昨日と同じ今日を過ごせることをむしろ幸せだと思って生きてきた。
それはそれで仕方なかったし、今更その生き方を否定しても始まらない。

そんな私が、退職を前にして、本当にA rolling stoneとして生きたらどんなだったろうと思う。
変わり続けること。
昨日とは違う自分であり続けること。
既得権に縛られずに、いつも新人で居続ける。

住む場所。
生きるスタイル。
よって立つもの。
それらを目まぐるしく変えていく。

そしたら、苔も着かないかもしれないけれど、石である私自身もすり減って何もなくなっているかもしれないとも思う。
自分が消えてしまうことを恐れず、変われない自分になってしまうことを恐れる。
そんな生き方ができていれば、かっこよかったかもしれない。

考えてみればA rolling stoneは、どこか別の場所に転がっていく必要はないのかもしれないとも思う。
同じ場所で回っていれば、やはり苔はつかない。

既得権は守りながら、同じ場所で、なれ合うことなく、最大限の努力をし続けることをローリングだと考えれば、そういう生き方も素敵だったかもしれない。
 
今の私は、すっかり回転することを忘れて、静かに苔に埋もれている。

苔に埋もれているけれど、退職のタイミングで、今いた場所にはいられなくなる。
苔むした場所から、また新しい場所に動かないといけない。
残りの時間を、どこかで、何とかして生きていかないといけない。

A rolling stoneに対する憧れは今もある。
でもやはり、どこかでひっそりと苔に埋もれていく方が、私には向いているのだろうと思う。


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