赤いシートで単語を隠す姿に、ずいぶん昔を思い出した
年末に青春18切符で旅をした。
長野県を通り過ぎて、新潟に列車が進んだ。
次第に風景の中に、雪が混じるようになる。
空が暗くなり、まだ夕方なのに夜のような明るさ。
そんな中を、所々で列車を乗り換えながら、北に向かっていた。
普通列車を乗り継ぐことになるので、あちこちで生活感のある風景を目にした。
ジャージ姿の部活帰りの高校生たち。
大きな荷物を抱えたご老人。
サラリーマンのような感じの人は、ほとんど見かけない。
主婦や、仕事を引退したようなおじさん。
そんな中に、単語帳を赤いシートで隠しながら、受験勉強をしている人を目にした。
私服だけれど、おそらくはこの春の受験に向けての準備。
なんだかまぶしい。
本人は大変かもしれないけれど、かけがえのない時間だなと思いながら、その女の子を見ていると、反対側の席にも、同じように受験勉強をしている男の子。
でも二人とも、単語帳を見ていたのは、何分かのことで、しばらくすると携帯を触り始めた。
勉強をしないといけないプレッシャー。
でもなかなかそれに集中できない自分。
そんな姿を見ていると、私自身の受験時代が思い出された。
勉強が苦手だった。
でも勉強しないといけないという思いはいつもあった。
よく本屋に行って、問題集や参考書のコーナーにで本を見ていた。
自分に合った本を見つけることができれば、勉強がはかどるような気がしていた。
店頭で、ぺらぺらと単語帳を見比べる。
その時は、自分に一番向いていると思う一冊を選び出す。
でも実際には、この本で覚えようと思って単語帳を買っても、最初の数ページを進めただけで、嫌になってしまう。
やらないといけないという自覚はあった。
でも気持ちがなかなかそこに向いてこない。
だからしばらく勉強せずにいて、このままではいけないと、次の問題集を買ってくる。
新しい問題集を買ってくると、また最初の数ページだけやってみて、飽きてしまう。
新しい本を買っては、すぐにやめてしまい、また新しい本を買ってくる。
単語の勉強にしても、abroadとか、abundant当たりの単語を何度も見ることになる一方で、その先の単語は全く覚えていない。
そんなことを繰り返していた。
思い出したくない、暗黒の時代だったという記憶。
あんな時代はもう経験したくないと、今までは思ってきた。
それなのに、年をとったからだろうか。
あの受験生たちを見ていたら、もう一度戻れるものなら、あの時代に戻りたいという思いが強くこみあげてきた。
老眼ではない目で、きちんと問題集を読む。
一生懸命、受験勉強に取り組み、自分で自分と勝負する。
もう戻ることができない時代。
大変だったけれど、可能性にあふれていた時代。
自分が何をするかも決めておらず、何ができるかもわかっていなかった。
明確な目標も決まらないままに、なんだかひたすら焦っていた。
暗黒ではあったけれど、一方で一番光にあふれていた時代だったかもしれない。
決めてしまってからは、その道をひたすら歩いてきた。
それはそれで大切な時間だった。
でも、決めるまでの時間は不安だった一方で、多方向の可能性の中にいたのだ。
なんだか、その時代に戻りたいと思った。
こんな風に思ったことはなかった。
私の中で、何が変わろうとしているのだろう。
もう一回人生をリスタートしたいと思っているからだろう。