人間を頼ってくる動物
何を最初に見たのだろう。
ある時期から、動物が人間に助けを求める動画が、私のパソコンで紹介されるようになった。
フジツボを、からだ中に付けたクジラや、ウミガメが、人間にそれをとってもらうもの。
自分の子供や、親が罠にかかってしまい、それを人間に救出してもらうもの。
腹が減って死にそうな状態で倒れているタイミングで、人間に食べ物をもらって、そのあとずっと人間について歩くもの。
いずれも、人間と動物の心がつながったような気持になれて、癒される。
私も、もう30年にもなるが動物と心がつながったような気持になった体験がある。
その時私は、ある発展途上国の村に、一人で生活していた。
生活の糧を得る目的で、ニワトリを飼うことになった。
村の人たちがみんなでやってきて、竹を割って壁を作り、周りからかき集めてきた木で柱を作って、鶏小屋が完成した。
ニワトリは、自分の居場所を覚えるらしい。
最初の3日間は、小屋の扉を開けずに、中で餌と水を与えるように言われた。
言われるままに小屋の中で世話をした後、3日後に小屋の小さな扉を開けると、ニワトリが勢いよく飛び出していった。
でも夕方になるとちゃんと小屋に帰ってきて、小屋の中で寝るようになった。
ニワトリは、思ったより賢いものだとその時から思うようになった。
当時5羽の鶏を飼い始めたのだけれど、そのうちの1羽はオスで、後はメス。
こうやって飼い始めると、オスとメスは勝手に交尾をし、ニワトリが卵を温め、ひなが孵る。
雛が孵ると、当然雛が育ち、小屋が手狭になってくる。
そんなタイミングで、若鳥のうちの一羽が元気を失って座り込んでいるのを発見した。
お尻から下痢のような、だらしのない糞が出ている。
ネット検索もできないし、ニワトリの育て方の本も持っていない。
獣医さんが周りにいるわけでもない。
私はそのニワトリを自分の家に連れて帰った。
そして人間用の抗生剤を少量の水で溶かした。
この水を針のついていない注射器で吸い込み、ニワトリのくちばしを横から押さえた。
そうすることで、ニワトリの口が自然に開く。
私は抗生物質入りの水を、そのぐったりしたニワトリに流し込んだ。
翌朝、ぐったりしていたニワトリがすっかり元気になった。
適当なやり方だったが、私の勝手な診断による治療がニワトリの病気を治したのだ。
私はニワトリを自分の家からはなって、仕事場に行った。
夕方仕事から帰ってくると、私に向かって走ってくるニワトリがいる。
模様からすると、朝、私が助けた若鳥だ。
このニワトリが、猫がじゃれるように私にくっついてくる。
ニワトリがこんな風にしてきたのは初めてだった。
そして、私が家の縁側に座って本を読み始めると、1時間くらい私のそばでじっとしている。
手を伸ばして、頭をなぜると、目と瞑ってじっとしている。
時には、私の肩にとまることもあった。
手乗りニワトリと呼んでいたが、本当にそんな感じだった。
ニワトリにも感情があり、人を覚え、心を交わすことができることをその経験で知った。
貴重な経験だった。