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「私の罪をお赦しください」


物書きのすなるSSといふものを、筆者もしてみむとて、するなり。

とは言ったものの、これをSSと呼んでいいのか筆者にはわからない。
SSを名乗る作品で、これから書こうとするものに近しい体裁を取っているものを浅学な筆者は見たことがない。

ただ、見方次第で「サイド」という表現がウソになりうることは認識している。
他に適切なジャンルが思いつかなかったので間借りさせていただいているが、要はまたも公式シナリオの独自解釈だ
モノローグという形で表現するのがやりやすそうだったのでそうしている、それだけの話。

なーんてウダウダ言うのも見苦しい、とっとと始めちまおう。

それではご覧ください!

マリーがあの行為に至る、その直前のお話だ。

本文

大変なことになってしまいました。

実のところ、何がどうしてこうなっているのかはわかりません。

サクラコ様から直々にいただいたお仕事を終えて。
聖堂の仕事もヒナタさんが対処してくださって。
思いがけず、久々のお休みをもらってしまいました。

なぜか、イベントの様子を見に行く気にはなれませんでした。
ゆっくりするつもりだったのに、なぜか落ち着かない気持ちがあって。
何をするでもなく散歩しているうちに、気付いたら学区外の見知らぬ公園にいて。
迷子になってしまったかとスマホを取り出し、地図機能で現在位置を確認…した、そこまでは良かったのですが。

ついでにふと、トリニティのグループチャットを覗いてみたところ。
謝肉祭中ということを差し引いても、ものすごい勢いで更新されていたのです。
何かあった。それでなければ、間もなく何かある。
こういう時は、大抵そうです。

ただでさえ、確度の低い断片的な噂からわかることは限られています。
私が何とか理解できたことといえば、せいぜい…

  • トリニティ総合学園を揺るがしかねない武力衝突が起こりつつある。

  • その中心にいるのは、サクラコ様とミネ団長。

これくらいでしょうか。

お2人とも、組織を率いるに値する、聡明で模範的なお方です。
私と比べるまでもない、比べることすら申し訳ないくらいに。

そんなお2人が衝突しようとしている。
一体なにがあったのか、見当もつきません。

私が覚えている限り、お2人とも、真剣にアイドルとなるべく張り切っておられました。

はじめは意見の対立こそありましたが、それもそれぞれのお役目に熱心であるからこそ。

悪意や私欲では絶対にありません。
あれほど立派な方々が、そんな理由で行動するはずがありません。

何より、お互いを尊重しておられました。これは間違いありません。
その場に、サクラコ様からのお呼び出しに応じる形で、私も一応おりましたから。

あれ、ひょっとすると。
そういう意味では、私も一枚噛んでいる…ということに、なってしまうのでしょうか?

うーん、そんなに大したことはできていないと思うのですが。
せいぜい、お2人がアイドルとして活動するにあたって、心ばかりのお手伝いをしたぐらいです。
衣装とダンスと歌について、先生のご厄介になりながら、少しばかり調査して資料をご用意した。本当にそれだけです。

それでも、容量の悪い私に気を遣ってくださったのでしょうけど。
お2人とも、大変に評価してくださいました。
それこそ、わざわざお休みまでいただいてしまったほどです。

確かに寝不足になってしまいましたが、それも勝手に夢中になってしまった私の自己管理の問題。
ただでさえお忙しいお2人に、よけいな心配をおかけしてしまうなんて。
仮にもシスターを目指す身なのに、やはり私は未熟もいいところ…

いけない、少々気が散ってしまいました。今はそれどころじゃありません。
とにかく、今頃サクラコ様もミネ団長も、アイドルとしての活動に備えて様々な準備をして…

して…いる…

はず

血の気が引く、というのは。
こういう感覚のことをいうのでしょう。

まさか。そうなのでしょうか。

私の提出した資料に、深刻な欠陥があった。
それが何かの誤解を生んで、巡り巡ってこうなった。

まさか?
まさかじゃないです。
それしか考えられません。

私が資料を提出した、あの時点では。
お2人とも、共通の目標を見据えて意気投合しておられました。
あのままであったなら、衝突なんて起こるはずもありません。

私です。

悪いのは。
原因を作ったのは。
全ての責任があるのは。

私しか、考えられません。

ああ。
未熟な身とは重々承知しているつもりなのに。
どうして気付けなかったのでしょう。
どこで、何を間違ってしまったのでしょう。

違います。
そんなことは、後でいくらでもわかることでしょう。

幸い、と言ってしまうのは罰当たりかもしれませんが。
とにかく、深刻な事態はまだ発生していません。

それに場所もわかっています。
トリニティ・スクエアなら、徒歩でも急げば夕方には間に合います。

…夕方?
間に合うんでしょうか。
そういえば、肝心の時間をまだ確認していませんでした。

ええと、「時」で検索…多すぎます。流石に読んでいられません。
「時間後」で検索…1件ヒット!

”二時間後にトリニティ・スクエアで何か起きる、ってやつだよね”

二時間後!?
無理です。息切れするまで走っても間に合いそうにありません。
最近は私も、仕事の合間に軽くストレッチとかジョギングをする程度ですが、運動を日課にしています。
ですので、自分の限界くらいはわかります。

どうしましょう。
いくらなんでも、物理的に無理とあっては打つ手が…

私は、なんてことを考えているのですか。
ダメです。
責任があるのに。
無理だから諦めます、なんて赦されるわけがありません。
先生なら、絶対に諦めません。

もっとも、こんな事態を招いてしまった時点で私は赦されないでしょうけど。
そんなこと、諦めていい理由にはなりません。

足りない頭で精々考えるんです。
このまま放っておくわけにはいきません。

そのとき。

物静かなこの公園に、微かな音が響きました。
いいえ、もう「微か」ではありません。
どんどん近づいているようです。

…どうやら、通りがかったバイクのエンジン音みたいですね。
大変申し訳ありませんが、今は通りすがりの方に意識を割く余裕は…

待ってください。

バイクが、近づいてきている…?

閃きました。

閃いて、しまいました。

間に合います。

二時間以内に、トリニティ・スクエアに。
徒歩では絶対に不可能な場所に。

いますぐ動けば、間に合います。

パイエティーは、手元にあります。
肌身離さず持っていて本当によかった。

よかった?
私はなんてひどいことを!
ただでさえ、これから罪深いことをしようとしているのに!

今日という日だけで、私はどれだけの罪を犯してしまうのでしょう。
私は、こんなにも愚かだったのですね。
先生も、ご尽力してくださったというのに…

…そうです。
肝心なことを見落としていました。

未熟で無力な私が、たった一人で駆けつけたところで。
サクラコ様とミネ団長の、ひいてはシスターフッドと救護騎士団の衝突を、どうこうできるわけがありません。
言うまでもなく、お強い方々です。
私が割り込んで盾になってみたところで、時間稼ぎにもなれるかどうか。

だから、先生にお力添えをいただかないと。
あれだけ私のために奔走してくださったのに、またもお手数おかけしてしまうのはあまりに忍びないものですが。
ごめんなさい。
私には、他に思いつきそうにありません。

もうすぐ、バイクがすぐそこの道に現れる頃です。
私が道に立ちはだかれば、素通りはできないでしょう。
あとはこの、パイエティーを…取り出して…

取り出して、そして…

ああ、どうか。
威嚇射撃で、済みますように。
無関係の方を巻き込む時点で、申し開きのしようもございません。
けれどせめて、どうか。
敵でもない人を狙い撃つような事態だけは、避けられますように。

それなら、先生も赦してくださるでしょうか…?
赦してくださらないかもしれません。
それでも仕方がありません。
悪いのは
わたし、で

せきにんが

ある から

だから

ゆるされなくて

みはなされ

いや

いやです

せんせいにだけは

…いけません。泣いていられる身分じゃないでしょう。
でも、せめて。
罪を重ねる前に、お祈りぐらいは。
しても、いいのでしょうか。

先生……。


懺悔します

勝手に思いつめて勝手に追い込まれるマリーを書いてるうちに「かわいそうはかわいい」に目覚めてしまった気がします。冗談抜きで罪深いわ。

ともあれ。
シスターを目指すのがレゾンデートルなくせして(傍から見れば)些細なことでシスター失格とか言っちゃうマリーは、ひょっとするとヒヨリ級に思いつめやすい子なのではあるまいか。
隣に先生がいてフォローしてる分には「いつもの」で済んでるけど、状況が悪い方に揃ってしまうとこういうこともある。…かもしれない。

無論、あくまでアイドルを経る前のマリーの話だが。

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