ひとつに
朗読劇になっています。
♠・れいむ 男 🍀・みなも 女
男・零(れい)
🍀みなも M
金木犀の匂いがした、、
部屋の窓から見る景色は変わらない、だけど季節によって四季折々の色がある。
白い部屋に取り残されていても、目に見えるものから匂いがわかる。。
♠れいむ M
いつからだろう、記憶を失って全身を管が通っている……耳には心電図の音、動かない身体、押さえ付けられるような圧迫感。
力が入らない……誰か、助けてください。
SE 物が落ちる音
♠れいむ M
…ナースコールか。声も出せない。
はぁ…また飲み過ぎたのか。気持ち悪い。
これで何回助かった…?
…覚えてないや。
🍀みなも M
あれから3年度目の冬がやってくる。あの時は楽しかったな、勿論今も楽しい!でも前とは生き方が違ってはいるものの、できるものは違っていたとしても、楽しいと思わないとメンタル持たないんだよ。本当は私だって怖いんだ……
SE ドアのノック音
♠れいむ M
・・・看護師かな
もう少し寝かせてくれ…
?! うっ! 気持ち悪い…
すみません、吐きそうなんです…
トイレに連れていってください。お願いします。
身体中の管と針を取り車椅子で移動する。
鏡を見ると、自分の顔が今にも死んでいたかのように青白く、唇は紫色になっていた。
🍀みなも M
いつも明るく振りまうのは平気、1番辛いのはこれから先、生きていけるかどうか解らないと言うこと。いつ消えてもおかしくないと言うことだ。
誰にも気付かれずに自分の存在を消していくのが辛いんだ、故意的に人との距離を離し、今まで接してきた人との連絡を断つ事こそ、最も辛く独りになるのが怖かった。
♠れいむ M
消毒液の匂いが鼻につく、白い天井が落ち着く、
目が霞み全身の力が抜けていく
「生き延びた…」
まだ死んではダメなのか…
部屋に飾られたシクラメンの匂いが微かに香る。
夢を見た、昔見た夢だ。
何をやっても届かない夢
やり方が解らないで諦めた夢
いつからか病に犯され忘れていた夢
憧れた自分の儚い想いを、今は恨んで嫉妬している。はぁ…何がしたいのか分からなくなってきた。
🍀みなも M
時に私は、自分だけ傷つけば周りは幸せだと感じることがある。
本当の私は弱いんだ。きっとそう。
強くある為に弱さを隠して笑顔を振る舞う。
それが真実。
だから、もう我慢しなくていいよね?
階段上の扉から入る風が心地いい。
日差しが強く天気も良い。
この感触も今日で終わり。
もうすぐこの気持ちから解放されるんだ。
♠れいむ M
動かない身体を無理やり動かし車椅子に乗る。
外の空気が吸いたいとお願いし、車椅子を押してもらう。日差しが眩しい、金木犀の匂いがする。
もう冬になるのか…意識を失っていた時間は早いものだ。あのまま昏睡状態でいたら死んでいたのかな…本当は死にたくなかったんだ。
涙を凝らしながら僕は空を見上げた……
🍀みなも
1歩1歩階段を上る。思い出を捨て去るように上を向いて前を向く。
開放された屋上の景色は生きてる中で1番美しかった。黄昏時、私は涙した。
なんでなんで泣いてるんだろう…
そうか…もう苦しまなくてすむからか。
【今までの自分、サヨナラ】
私は足を策にかけ飛び降りた。
♠れいむ 「あっ!」
🍀みなも 「あっ…」
SE 物がぶつかる音
♠れいむ
痛い…痛い…視界が奪われる。
これが死ぬってことか…
なんだろう、死にたかったのに今は死ぬのが怖い。
生きる事への嫉妬から生まれた結果なのか…
🍀みなも
やっぱり私は人を不幸にしか出来ないのかな。
最後の最後に人に迷惑掛けちゃった…
でもこの結果が私の真実なんだ…
だからごめんなさい。
もう誰も傷つける事は無いんだ…
最後くらい、誰も傷つけず、笑っていたかったな…
SE 救急車の音
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零 M
僕は生きているのか…?
そうか…また生きてしまったのか…
身体中が拘束され身動きが取れない
それに全身に酷い痛みがあって…
って、あれ?胸が有る。
どういう事だ…僕は確かに落ちてきた【あの人】とぶつかったはず。
理解が追いつかない、この状況が解らない。
🍀みなも M
きみは生きていたんだね。良かった。
零 M
周りを見渡しても誰もいない。
🍀みなも M
私は、あの時飛び降りて君に落ちた。
君は私にぶつかり脳の損傷が酷く、私は心臓に損傷を負い助からない程の事故だった。
零 M
誰だ!何を言っているんだ?
つまりどういう…
🍀みなも M
心臓移植よ。
君、ドナーカード持っていたでしょ?
いつ死んでも良いように…
零 M
だからって条件がそんな簡単に合うわけない!
🍀みなも M
でも、それが現実であり真実なの。
零 M
馬鹿な、じゃあこの身体は君のものなのか!?
🍀みなも M
そうだよ、君は私の身体で生きてるの。
それと同時に私は君の心臓で生きている。
零 M
「・・・」
🍀みなも M
私は周りを不幸にして生きてきた、だけどそれも君で最後だよ。
私の脳はかろうじて生きていた、君は心臓が生きていた。ただ、それだけの話。
零 M
僕はどうしたらいい、どうしたら良いんだ…
死んでも尚、生かされる。
いや、生きたかったんだ。
だけど…誰かの身体で生きるなんて…
そんな事、いや、、
そもそも心臓だけ僕であっても、僕は死んでるも同然か。
君は僕、僕は君。
心と身体がたとえ離れ離れになっていても、それは生きている時も同じだった。
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零 M
これは僕の心の問題だった。
生きているも死んでいるもどちらも一緒
僕の中の【きみ】と【ぼく】
全てはここから始まったんだ。
君とひとつになる事が運命ならば
今僕が生きているのも、心臓が動いているのも
それも運命。
君の気持ちが頭から入ってくる…
辛い… 辛すぎるよ…なんだよこの記憶…
それは、【れいむ】とぶつかる直前までの記憶だ。
繰り返される記憶に吐き気がする。
そして【キミ】は…
僕はそのまま意識を失った。
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🍀みなも M
拝啓、名前の知らない君へ
あの時は上から降ってきちゃってごめんね!
私の意識はもうそんな長くないと思います。
だからここに手紙を残します。
私は周りの人を傷つけて生きてきたんだ。
知らない間に傷つけ、そして傷ついてきた。
だから消えてしまいたかった。
ただ逃げたかっただけなのかもしれない。
もう限界だったのかな。
でも君は生きたかったんでしょ?
解るよ、心臓から意識が伝わってくる。
だから私の代わりに生きて欲しい。
半分は私だもん!
生きたいと思うのなら、私の身体を使ってください。そして傷つけた分、私の為にも、君のためにも幸せになって欲しい。
いきなりこんなお願いしてごめんね。
君にしかお願い出来ないからさ。
ゼロから一緒に始めようよ!
「出来ることなら生きたかった…」
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