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#22 悔しい涙

前々回、“後悔”の話題の際に日本拳法をやっていた時の事を書いた。
その時に思い出した事、長くなってしまい色々と馬謖を斬ったので、そのネタの一つで敗者復活戦をしてみる。
格闘技なんて野蛮な事は嫌いという方はご注意を。
私のダサいお話しだ。

重複するが、ヘタレな私だが学生の頃これでも某大学の体育会日本拳法部という所に所属していた。
私は極度に痩せっぽちなのでお世辞にも強いとは言えなかったが、それでも好きでそれなりに練習していたら2年生の頃にはレギュラーに加えて貰える位にはなっていた。

日本拳法とは柔道着の上に剣道に似た防具を付けた出で立ちで、蹴る殴る捕まえて引きずり倒して上から踏ん付けて…
有効打への審判の”一本“コールを2つ先取した方が勝ちという競技。
金属も使った防具で完全防備なので思いっきり殴り合える。
怪我はしないが、強いパンチを貰った時には首から上がもげるんじゃないかという位の衝撃は受ける。
そして体重も技術レベルも一切関係無く試合するので、とんでもない実力差での試合になる事もしばしば。

学生の大会はだいたい学校対抗のチーム戦。
競技人口が少ないので地方予選など無くいきなり全国大会。
何でもいいから“インカレ出場!”の賞号が欲しい方にはお薦めの競技だ。

1チーム5人だが大会によって、両チーム一人ずつ選手が交代する方式と、勝った選手が残って負けるまで試合を続ける方式がある。
目立って強い選手がいる場合は後者の勝ち抜きが有利になるが、飛び抜けた選手はいないが全体に強いチームなどは前者の入れ替え戦の方が有利だったりして、試合形式によって相手チームを見てどの選手を何番目に使うかなど、少々戦略が必要だったりする。

色んな試合をしたが、一度全国レベルで有名な選手と当たった事がある。
これが一番印象が強く忘れられない、一番悔しかった試合となった。

相手とは体重差だけで30kgはあったんじゃないだろうか。
上手いというよりもフィジカルを活かした完全なパワーファイター。
その所属する相手チームは彼のワンワンチームと言えなくもないが常に全国上位に名を連ねる強豪校。
対する私のいるチームは、一年先輩にやはり全国に名を馳せる凄い人がいるが、他に強い選手がおらずいつも3回戦突破出来るかどうかの中途半端なチームだ。

試合が始まって私は確か3番目の中堅、勝ち抜きではなく入れ替え戦。
コートに上がってその選手と対峙する。
見るからに屈強な体付き。
もう逃げられない。
コワ!
蹲踞(そんきょ:相撲の試合で始める前に選手二人が腰を落とすやつ)して審判のコール。
“始め!”

相手はいきなり勢いよく突っ込んで来て大砲をガンガン連射して来る。
揉みくちゃにされながら思う。
「嵐の中の小舟ーっ!」

何とかやり過ごして一瞬攻撃が止んだところでこちらも反撃する。
小さくステップインしてワンツー。
前拳(ジャブ)は次のパンチへの先行動作の意味もあって目眩し的に小さく。
本拳(ツー)はストレートと言うよりも、前に大きく重心移動して野球のピッチャーがボールを投げる様なフォームで、相手のガードを飛び越える感じで上から弓なりに打ち下ろす。
側から見るとただの大振りだが相手には背中からパンチが飛んで来る様に見えるので、やや見え難いパンチ。
と、それっぽく書く。
遮られるでもなく避けられるでもなく、目標へ拳がスーッと入って行く感覚。
“行けるっ!”
拳に軽い手応え。

と、その瞬間頭をハンマーで殴られた様な激しい衝撃を受けて目の前が真っ白になった。l
貰ったのは強烈なカウンター。
防具の上からなのに殴られて一瞬意識が飛んだ。
どんだけ重いパンチやねん!大男コワ‼︎
これは“絶対一本取られた!”と思ったのだけれども…

通常、一本取るとそこで審判が試合を一旦中断、中央に戻って仕切り直して続きが始まるのだが、何故かそのまま次々とパンチが飛んでくる。
“ふざけんな!何で審判止めてくんないのー!”

何が起こっているのか理解出来ないまま、私もそれなりに反撃するがその度倍返しにあう。
なぜか試合は続く。

“勝てる訳ないのは分かったから、極めるならサッサと極めろよこの野郎ー!”

2本目を取られて負けた時に思った事。
“やっとかよ、酷い目にあった!“

その後、残りの選手が頑張ってくれてまさかの大金星、私のチームの勝ち。
思わず皆んな飛び上がってガッツポーズで響めく。
私ももちろん喜んだ。
でも…私に皆んなと一緒に勝ちを喜ぶ資格は有るのか?

試合後に聞いた話。
私との試合が終わった後で相手選手は監督から怒られていたらしい。
圧勝したのになんで?

どうやら試合がすぐに終わらなかったのは、私が頭から突っ込んで距離を潰すせいでパンチが当たっても相手の手が伸び切らず、一本とは認められなかった様なのだ。
決してまるで試合になっていなかった訳ではなかった。
なのに私は先に勝ちを諦めてしまっていたのだ…

試合中は練習通り、体が勝手に前へ前へ頑張って動いてくれた。
気持ちも一緒に前へ攻めていたら、結果はどうあれこんな思いはしなかったかもしれない。
体よ、すまない…

自分の貧弱さは百も承知だがハートの弱さも思い知って、なんか悔しくって情けなくって、トイレでこっそり泣いてしまった…
ダサい。

どうせ泣くなら一度でいいから嬉し泣きってヤツをしてみたかったよ。

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