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#14 心を動かす仕事
前回さんざん仕事の愚痴を書いたので、今回はこの仕事をしていて嬉しかった事編。
これ読んでパン屋さんになりたーいて方が増えないかな!
基本的に全ての仕事は合法である限り誰かの役に立つから存在するのだが、普段なかなか自分の仕事が人の役に立っている事を実感する瞬間は少ない。
でも飲食を含めたサービス業はお客さんの笑顔がダイレクトに見られる、感じられる、声が聴こえる素敵な仕事だと思う。
特にパン屋は最寄り性が高く、ご近所の方が繰り返し来てくれる。
「ここのパン以外食べる気がしないんだよね」くらい言ってもらえたらパン屋冥利ってもんだ。
どうせやるなら人の記憶に残る仕事がしたいよね。
以前、初めて来てくれたフランス人が後日再来店し、興奮した様子でまくし立ててきた。
「スゴイ!オイシデス‼︎ 日本デコンナノ初メテ!フランスノ味デス!イヤ、フランスト比ベテモ…」
ほう!フランス人に喜んで貰えるなんてそりゃ嬉しい!
フランスと比べてどうなのどうなの⁈
「フランスト比ベテモ、まあまあデス」
だよね。正直にありがとうね。
10年ちょっとやっているとファミリーで来てくれてた人達が子供の成長でご夫婦だけの来店になり、でもそのうち思春期を終えた子供も一緒にひょっこり来てくれて、なんて事がある。
「覚えてますか?ここのパンで大きくなりました!」
とか言われるとグッと来る。
そりゃあ覚えてるさ!
一番印象的だったお客さんはオープン間もない頃から来てくれてる二十歳前後の若い男の子。
ちょっと人付き合いが苦手そうな伏目がちな子で製品名は言わずに“このチョコパン!”という感じで、あまりパンに馴染み無くて警戒心露わな感じだった。
ところがパンを気に入ってくれたみたいで頻繁に来てくれる様になり、ちゃんと製品名を覚えてくれる様になった。
食べやすい菓子パン中心だったのが、そのうちシンプルな全粒粉のパンなんかも食べてくれる様になり、確実にパンが身近な食べ物という事が伝わっている手応えがあった。
大雪が降って5m先が見えない様な日にも30分以上かけて歩いて来てくれて、いつもと変わらぬ様子で買っていってくれた日は嬉しかったしありがたかった。
でもそのうち姿を見ない様になってどうしたかと思っていたらその子の母親というご婦人がいらっしゃった。
わざわざ母親が来るなんて只事じゃない!
何か彼の身に不幸な事でも…⁈
と身構えた。
聞けば彼の就職の報告でホッとした。
どうやら引き篭もりだった彼が散歩でたまたま見つけたパン屋が気に入って通う様になり、それで毎日長い距離を歩く事で気持ちも前向きになり働く意欲が芽生えたのだという。
「このお店のおかげで引き篭もりだった息子が社会に踏み出す事が出来ました」
だって。
もう、泣きそう…!
一応、材料も製法も配合も、手間が掛かってもコストが掛かってもお客さんに美味しく安全に食べて貰う事を最優先にやって来たつもりだったのが間違いじゃなかったんだな、ちゃんと伝わってたんだなと噛み締めた。
その後彼がお店に来てくれた時に色々お話しして、どのパンを気に入ってくれているのか聞いてみた。
「いちばん美味しかったのはねぇ」
ふむふむ。
なんだろう?サンドイッチ?菓子パン?
「いちばん美味しかったのは一回だけ売ってたイチジクのケーキですね!」
…ああそれ、私のパンじゃなくてフランスで知り合ったパティシエさんが、手伝いに来てくれた時に作ってくれたやつだね…
作って貰う様にお願いした甲斐があったよ。
喜んでもらえて何よりさ。
というオチをただ書きたかっただけの今回でした。
ちゃんちゃん