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時空を超えて‥‥小説(世流寝狐9)
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ジョギングするためにコートを着てたのかと、フッと思ったりもしたが、これは愚答であることに気づき自嘲した。
内野はほとんどの署員が帰署した後、帰途に就いた。被害者の男性の身元については、行方不明者のデータベースに類似の人物は見出せず、今日まで生活安全課への問い合わせもなかった。
合志は内野に報告した際、手掛かりと言えるかどうか、という言葉を付け加えていた。これは謙遜のつもりではなかった。自分の中でもどう判断して良いのか分からなかったのである。
合志は四つの言葉を繰り返しながら、しだいに何か暗くもの悲しさを感じた。根拠は無く、想像の域を脱しないことは覚っていながらも、むしろ事件に奥深く関わっているという気がしてならなかった。それは単に荘厳な鶴見岳から吹き下ろす風の音のせいだったのかも知れない。
合志は答えの出ぬままゆっくりと腰を上げた。
5
次の日、合志は死体発見者の女性から再度事件当日の状況を聴くため、中須賀元町へと向かった。昨日に比べると風は弱かったが、冷え込みは厳しかった。
遠山水江の住む秋月荘は、荘と名のつくイメージからはほど遠く、三階建てでまさしく独身女性が好みそうなモダンな薄いピンク色の建物だった。水江の部屋は二階の中央に位置していた。サッシの各窓には、白いレースのカーテンとそれぞれカラフルなカーテンが引かれていた。
合志はまだ女性と付き合った経験が無い。仕事とはいえ女性のアパートを訪ねることに何となく胸の高鳴りを感じながら、ゆっくり呼び鈴を押した。
「何方様でしょう」
業務的な言葉だった。
「私、別府署の合志という者ですが、先日男の人が殺された件で、遠山さんに少しお話をお伺いしたいんですが」
水江はドアチェーンの向こうに顔を出した。早朝から他人と会うのは、あまり気分の良いものではない。水江の顔は曇っていた。
「私、連絡しただけで何も存じませんけど」
「あ、いや、実は他になかなか目撃者が現れないものですから、発見された時の様子をお聞きするだけですので、申し訳ないですがお願いします。そうお時間はとらせません」
合志が頭を下げると、彼女はしぶしぶチェーンをはずしてくれた。
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*週末に少しずつ投稿する予定です。作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。なお、作品の無断転載・複製・複写・Web上への掲載(SNS・ネットオークション・フリマアプリ含む)は禁止です。
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