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最後の時間を後悔なく過ごすために

 最近の話題として、10月の衆議院議員選挙で国民民主党の政策に「尊厳死の法制化を含めた終末期医療の見直し」という項目がありました。
 「尊厳死」とか「終末期医療」といわれても、ほとんどの方はピンとこないと思います。「死なんて、まだまだ自分とは関係ないし、考えたくない。」「病気になったら、その時考えればいいよ。」「日本の医療に任せておけば大丈夫でしょ。」こんな風に思って、深く考えようとはしないでしょう。
 しかし、もし明日、自分や大切な人が余命宣告を受けたらどうしますか。
 あなたが今、大切な人との別れを想像して、少しの不安を覚えたなら、この文章を読んでみて下さい。
 この文章では、看護師として現場で見てきた経験を元に、あなたが最後を後悔なく過ごせるためのヒントをお伝えします。


1 延命処置のその先に本当に望む未来はあるのか

 
 私が勤務している地域の中規模病院は2次救急を掲げており、救急車で
急病人が運ばれてきます。高齢者の場合、急変した時に「延命処置はどこまでするのか」という難しい選択を迫られることがよくあります。心臓マッサージはするのか、人工呼吸器はつけるのか、強心剤や昇圧剤は使うのか、
点滴はするのか等です。
 あなたの意識がもうろうとして、自分で意思決定ができない場合、あなたの周りの人は、どのような選択をすると思いますか。
 高齢者の場合、骨がもろく、心臓マッサージで骨を折る可能性があります。人工呼吸器を付けると、のどに太い管が入り、とても苦しいです。
そして、ずっとベットに寝たままです。
 あなたは苦しい延命処置を望みますか。
 中には家族の都合で本人の意思とは関係なく延命処置になる場合もあります。相続の問題や家族の気持ちに整理がつかないため、などです。
 しかし、本当に大切なのは本人の意思です。
 あなたの最後の時間を価値あるものにするためには、事前にあなたの意思を伝えておくことが必要です。
 そこで登場するのが、「アドバンスケア・プランニング(ACP)」という考え方です。

2 ACPで自分の未来を決める

 アドバンスケア・プランニング(以下ACP)とは医療用語で、自分が意思を伝えられなくなった未来に、どんな医療処置をしたいのか、したくないのかを前もって医療者や家族と話し合うことです。
〇具体的に次のことが話し合われます。
 ・どの程度の医療処置まで受けたいか
  (医療にしてほしいこと・してほしくないこと)
 ・どんな場所で過ごしたいか
 ・大切なことは何か
  (痛くないことか、食べられなくなることか、話せなくなることか)
 ・意思が伝えられなくなった場合、誰に意思を伝えてもらうか
〇ACPの開始時期は次の通りです。
 ・予後1年を目安に状態が安定している時
 ・通いの診療から訪問診療に切り替えた時
 ・要介護(介護保険の区分)の認定が悪くなった時
 ・入退院時などの節目
 ACPは、医師から現在の状況と治療の選択肢、その選択肢のメリットや
デメリットが話されるところからスタートします。「自分の最後をどうしたいか」なんて聞かれても、すぐには決められないでしょう。迷いや揺れを経て、時間をかけて自分の意思を決めればいいので、焦らなくて大丈夫です。
 ACPがうまくいけば、自分が望む最後を迎えられる可能性は高くなりますが、課題もあります。
 ACPは医療者側もコミュニケーション能力の高さが求められたり、時間の確保が難しかったり、ACPを行うこと自体に診療報酬(医療処置に対して支払われるお金)が付かないこともあり、ACPがしっかり行われていない病院も多いです。こんなケースがありました。
 先日、大学病院に膀胱癌で通院している80代の男性の家族から、私が勤務する病院へ食事が食べられていないから受診したいと電話がありました。その日、大学病院にも相談はしたようですが、予約日ではないからと受診は断られたそうです。
 その方は介護タクシーを使い、ストレッチャーという簡易ベットに寝ながら、私の勤務する病院に到着しました。やせ細っており、自分で動くこともできず、尿を貯めるバックの中は血尿でパンパンになってました。医療者なら終末期かなと思う状況です。
 病院に到着早々、普段は別居している娘さんから、入院させて欲しいと真剣な表情でお願いをされます。しかし、大学病院から治療の経過が記載された紹介状などもなく、その日の担当医は治療方針を決められず、また緊急性はないと判断し、結局ペットボトル1本分の点滴だけして帰ることになりました。
 このケースでは、もし本人から、
 ・歩くのが辛くなったら、病院へは行きたくない
 ・食べられなくなったら、自宅で点滴だけでもしたい
ということを事前に主治医や家族に伝えていたら、起こらなかったかもしれません。通いの大学病院ではなく、医者が自宅まで来てくれる在宅訪問診療等に担当を移すことによって、自分のペースを乱されることもなく、過ごせたはずです。このようにACPは、まだまだ多くの医療機関に浸透しているとは言えない状況です。

3 看護師や他医療職者に相談しよう

 もしあなたが、ACPをしっかり受けられていないと感じた場合は、どうしたらいいのでしょうか。医師からの説明が不十分だと感じたらな、看護師やソーシャルワーカーなどに思い切って相談してください。
 動くのが辛くなり、身の回りのことを自分でするのが大変になりそうなら、介護保険を申請しましょう。ケアマネージャーという介護のプロがあなたと家族をサポートしてくれます。

まとめ

 終末期医療において、ACPはより重要性を増してくると思います。最期を後悔なく過ごすためには、自分が望む医療を理解し、それを信頼できる人に伝えておくことが大切です。医療のことは難しく、専門家に聞かなけば分からないことも多いです。だから、1人で悩まず、周りに相談しながら進めていきましょう。

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