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KAYOKO TAKAYANAGI|鳥居椿|あまりに英国的な

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 紳士服といえば英国。
 18世紀に誕生したフロックコートに端を発する英国紳士の正装は、現代に至るまで「ブリティッシュ・スタイル」としてスーツの王道を歩んでいる。
 ロンドンのバーリントン地区にあるサヴィル・ロウは、その英国スーツの代名詞として有名だ。オーダーメイドのそのスーツはビスポークと呼ばれる。客の要望に合わせて誂えられることから、お客様が希望を「話される=be spoke(speakの受身形)」が語源と言われるそのビスポークは、真のジェントルマンの正装たる所以である。

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 冬のロンドンの夜は早い。
 菫色の空の下のセピアがかったロンドンの街並みには、薄く霧もかかっているようだ。人気のない街路には冷たい空気が漂う。
 街灯に照らされた石畳の道を行くシャーロック・ホームズとワトスン博士は、如何にも仕立ての良い外套に身を包んでいる。
 ホームズの代名詞とも言えるインバネスコートを、鳥居はモダンなストライプの生地で仕立ててみせた。もちろんこちらもビスポークだ。やわらかく翻るその裾は、上等のウールの肉厚だがしなやかな触り心地を想像させる。
 紳士たるもの帽子と手袋は欠かせない。懐中時計も懐には忍ばせてあるだろう。ワトスンはステッキも手にしているが、ホームズは何時いかなる時にでもすぐに行動できるように身軽な様子だ。
 そして二人の背後、少し離れたところで俯きながらも全身を耳にして様子を伺っているのは、宿敵のモリアーティ教授か。こちらも長身痩躯にクラシックな外套を身にまとい、シルクハットにステッキと隙がない格好である。

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 鳥居椿が描く人物は、どこかノーブルで憂いを帯びている。
 ホームズの理知的で鋭い眼差し、ワトスンの思慮深く落ち着いた表情。鳥居の精緻な筆致は、二人の内面までも見事に表現している。ホームズの山高帽にアスコットタイ、ワトスンの中折れ帽にネクタイといったファッションにも、彼女のこだわりが見て取れる。

 この作品に描かれているのは、コナン・ドイルが創り出した「シャーロック・ホームズがいる英国」そのものである。物語に流れる時間が、ロンドンの湿気や匂いまでが、そこには存在する。
 鳥居椿が描くホームズの視線にとらえられたなら、たちどころにあなたは19世紀のロンドンの街角に佇むことになるだろう。
 彼らの外套の暖かく心地良い生地に触れるほど近く。

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鳥居椿 | 画家 →HP
水彩画を中心に個展・グループ展等で作品を発表。日常に潜む不穏な空気感、不安感から題材を得た内的形象を描く。自身が少女であった頃の眼差しから逃れられず、少女期特有の偏執的な思考、記憶の片隅にあるもの達を作品に投影している。

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 ロアルド・ダールの作品に初めて出会ったのは、早川書房から刊行された「異色作家短編集」というシリーズだった。その名の通り一癖も二癖もある作家達を揃えたそのラインナップの中に、ダールの1冊があったのだ。

 同じ英国人の作家でも、ジョン・コリアやナイジェル・ニールといったかなりアクの強い面々に比べて、ダールの作品はその人を食ったブラックなユーモアの方向がスマートな印象を受ける。
 それは第二次世界大戦中にイギリス空軍の戦闘機パイロットとして負傷しながらも活躍し、除隊した後アメリカに渡って「ニューヨーカー」などに発表した短編で高い評価を受けたという、彼の華やかな経歴に由来するものかもしれない。

 ダールは児童文学作家としても知られている。自身の子供達のために書いたという『おばけ桃が行く』や『チョコレート工場の秘密』は、映画化もされたのでご存知の方も多いだろう。”20世紀の子供達にとって最も偉大な語り部の一人”と言われた彼の児童文学作品は、60カ国以上の言語で訳され今も世界中の子供達に愛されている。
 またダールは007シリーズの作家イアン・フレミングの友人でもあり、フレミング原作の『007は二度死ぬ』や『チキ・チキ・バン・バン』といった映画の脚本の世界でも活躍している。BBCでは彼の短編を元にしたTVシリーズも作られるなど、押しも押されぬ人気作家であった。

 ノルウェー人の両親の元に英国サウス・ウェールズのカーディフに生まれたロアルド・ダール。
 作家としてはずっとアメリカで執筆を続け、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)の短編賞を受賞した彼だが、その人間に対するシニカルで諧謔味に富んだ視点は、まさしく英国人ならではのものだと思う。
 ダールは、かの有名な英国の諜報組織MI6によって設立されたイギリス安全保障調整局(BSC)に所属して、ワシントンで諜報活動に携わっていたそうだ。
 彼の人間に対する視線が、時に冷酷で残酷、また時に優しく慈愛に満ちているのは、愚かで愛おしい人間という存在を表からも裏からも冷静に見つめ続けたからかもしれない。

 短編小説の名手として知られたダールの代表作が、この『あなたに似た人』(原題は『Someone Like You』)である。かつて私が読んだ田村隆一の訳も良かったが、現在はより読みやすくなった新訳版が発売されているのでお勧めだ。
 あまりにも有名な短編ミステリ「おとなしい凶器」をはじめ、風刺や皮肉が効いたブラックユーモアは、如何にも英国人らしい毒に満ちている。
 なかでもミステリマガジンのオールタイムベストにも輝いた「南から来た男」は絶品。緊張感あふれる展開の最後に待ち受ける苦味を、ぜひ味わってほしい。

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00_通販対象作品

作家名|鳥居 椿
作品名|In the fog street

アクリル絵具・ワトソンボード
作品サイズ|30cm×22cm
額込みサイズ|39.5cm×30.5cm
制作年|2021年(新作)

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