YAYACO YONEYAMA|両性具有香水《3》男装の麗人アイリーン・アドラー
2019年11月2日。パリ滞在中のノール様がちょうど居合わせたセリーヌ オートパフューマリー開店初日。世界最速で持ち帰ってくださった7種類のムエットの中で惹かれた香りはイヴニングラインのレプティールとブラック・タイでした。
セリーヌ|ブラック・タイ
CELINE|BLACK TIE
ホワイト アイリスバター・シダー・ツリーモス・バニラ・ムスク
ブラック・タイはエディ・スリマン自身のテーラードシルエット、クチュリエとしての香水。彼自身と彼のクリエイションの核であるアンドロジナスの概念が組み込まれた香り。もしもふたたび両性具有香水をテーマにした香水談話室を開く機会があるならばぜひ紹介したいと思っている香水です。
エディ・スリマンは2018年1月に〈セリーヌ〉のアーティスティック クリエイティブ イメージディレクターに就任しました。これまで香水がなかった〈セリーヌ〉にオートパルフューマリーのコレクションを発表。プライベートを一切明かさない彼が、最も親密で個人的なクリエイションとして。
1966年にイブ・サン=ローランがタキシードを女性用のパンススーツとして発表したことはそれまでの既成概念を覆す事件でした。女性が纏うスモーキング。鮮烈なイメージは脳裏に焼き付いています。
エディ・スリマンは〈イヴ・サンローラン・リヴ・ゴーシュ オム〉にてアーティスティックディレクターとして活躍し、1998年より3年間ジーンズラインの〈サンローラン〉を手がけました。2001〜2007年は〈ディオールオム〉、2012年に再び〈イヴ・サンローラン〉に舞い戻ったエディはブランド名からイヴを取り、オートクチュールのアトリエを復活させたのちに2016年に退任します。重要なコレクションにおいてはムッシュ・イブ・サン=ローランへのオマージュとしてスモーキングジャケットを発表し続けてきました。
エディ・スリマン自身もタキシードジャケットを日常着にしており、ブラック・タイは「純粋にエゴイスティックに自分自身が必要としていた夜の香り」だと言います。
「ボヘミアの醜聞」はホームズが馬扱い人や牧師にと変装の達人っぷりを披露してくれる楽しいエピソードですがアイリーン・アドラーも変装によって名探偵を煙に巻きます。
グラナダTV版テレビドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」ではボヘミア王の回想シーンにヒントがあります。アイリーンから写真を取り戻したいボヘミア王が反芻するのは甘い記憶。目隠しされた楽団の演奏で踊るふたりっきりの舞踏会や射撃乗馬を楽しむアイリーンの姿。事件の発端となる2人の姿が撮影された顛末も登場します。肖像写真の撮影中に王にそばに寄るアイリーンのいたずらっぽい仕草。恋の病熱に浮かされた国王の目にはさぞかし蠱惑的に映ったことでしょう。ふたりでナイトクラブに出かける場面ではアイリーンはトップハットを被り男装をしています。
ご存じのように私も女優として修練を積んでおります。男装のごときは、訳ないことでございます。折に触れてはその身自由さを利用しておりました。
ボヘミアの醜聞 A SCANDAL IN BOHEMIA
アーサー・コナン・ドイル/大久保ゆう訳
ホームズを出し抜いたアイリーンがブロマイドとともに送った手紙の一節です。ヴィクトリア時代にジェンダーを軽やかに着替えてみせるアイリーン。
男装用の衣装を「散歩服」と呼ぶセンスに痺れるのです。
「女には魔性の女と母性の女、娼婦と母、この二通りのタイプがあると分類したのは男性である。しかし……たまたま何事かによって自分に目覚めた女が魔性の女なのであり、目覚めない大多数の女は魔性の部分を生き埋めにさせたままでいるだけなのではないだろうか」
(高橋たか子『日本の名随筆 本巻16 性』より)
セリーヌ表参道店へ潜入捜査へ伺ったときにはじめてラ ポ ヌを試しました。9種類の中で唯一フェミニンな香りと知りとても気になっていたのです。
セリーヌ|ラ ポ ヌ
CELINE|LA PEAU NUE
ベルガモット・ローズ アブソリュート・ホワイトオリスバター・ライスパウダー・ヴェチバー
70年代のフランス女優の銀塩写真からクリエイトされたというその香りはふわりとセンシュアルな白粉が香り立ちます。うっとりとするようなクラシカルなローズとアイリス。ただし糖度は抑えられています。
しばらくするとヴェチバーなのでしょうか、個性的な土っぽさが現れてきます。頬ずりしたくなるような甘さはなく滑らかな感触でありながらひんやりと体温の低い素肌。怜悧で凛とした気高さが漂い、一筋縄でいかない翳りのある淑女、自分に目覚めた女、まさにアイリーン・アドラーの香水だと思ったのです。
全ラインナップ通じて感じることですが、セリーヌの香水は薄紗を纏うように肌をやわらかく繊細に包み込んでくれて、まさしくクチュリエがてがけた香水なのだと実感します。個性を際立たせる肌残りもシフォンのように柔らかなので夕刻ジャケットを羽織るようにブラックタイに着替えるのも素敵です。
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作家名|ヨネヤマヤヤコ
作品名|おやすみなさいホームズさん
作品サイズ|24m×16cm
額込みサイズ|38.4cm×27.8cm
制作年|2021年(新作)
Text|KIRI to RIBBON
2019年に開催された霧とリボン企画展《菫色連盟の事件ファイル》では、架空の香水《THE WOMAN》をめぐるイラスト作品を発表したヨネヤマヤヤコ様。本イベントでは、THE WOMANの才気が颯爽と冴え渡る、夜のベイカー街での印象的な場面をイラストレーションに留めました。
かのホームズでさえ、その声の主を特定できなかったアイリーンの男装した美声。オペラ歌手として声を自在に操るアイリーンならではの洗練の魅力を、外套の菫色の裏地に託してチラリと覗かせます。ベイカー街の夜風をも感じる素敵な演出です。
山高帽の影がうっすらと落ちる白磁の面差しには頽廃的な美が宿り、男装して尚、妖しいまでに魅惑的なアイリーンの美貌がうかがえます。
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オンラインショップ内《ヨネヤマヤヤコ》様のコーナー
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