君がいたなら〜If I Had You〈前篇〉|短編小説
未歌たちは毎年開かれている、波止場の臨海公園での花火大会へ、仲の良いグループで集まって行こうと決めた。
同じ高校の男子3人、女子3人。
実際に付き合っている訳ではないけれど、どことなく意識しているような気分もある。夏休みの、ちょっとしたグループデートだった。
―――
未歌含む女子3人は、浴衣を着ることにした。そのうちのひとり、李理佳の家で集まって、雑誌を見たりサイトで比べたり、3人が同じ雰囲気にならないようにどうするか、浴衣の色柄を話し合った。
女子はこういうことになると、勉強よりもっと夢中になってしまう。
未歌は従姉妹が着ていた、藍色に数色の朝顔が咲いている浴衣に決めた。帯はベージュの横縞で、小さな赤い帯飾りを付ける。
髪は結い上げるほど長くないので、いつもは下ろしているけれど、ポニーテールにまとめることにした。
ショートヘアの史生子は梔子色の大柄の浴衣。萌黄色の帯を締める。
彼女はお洒落が好きなので、頭に白いパナマ帽を被るつもりにしている。
可愛いもの好きの李理佳は白地に、ピンクと紫のさくらんぼの柄の浴衣。縮緬の兵児帯は、ややくすんだチェリーピンク。ピンクと白のレースのリボンをツインテールに結んで、浴衣のイメージと合わせることにした。
イメージは決まったけれど、高校生だから、そんなにお金はかけられない。
ショッピングモールやファストファッションの店で、楽しみながら自分の着かたに合うものを探すのだ。
結局、話し合ってから揃えるまで、1週間くらいかかった。
ーーー
夏休み、花火大会当日。
男子3人とは、駅前の広場で待ち合わせた。
未歌と同じ中学だった陸上部の男子と、ブラスバンド部の眼鏡をかけた男子と、帰宅部だけど天才肌の男子。
彼らはTシャツの上にオーバーサイズの綿のシャツを羽織ったり、たっぷりしたレイヤードのTシャツを着たりして、デニム、スニーカーといったラフなスタイル。
一見気合いが入ってなく見えるけれど、こだわりの分かるTシャツの選び方だとか、グレーや紺系のフレンチシックな着こなしで、この街らしい清潔感があった。
ーーー
全員、終業式からたった2週間くらいしか会わない日が続いていない。
それなのに、
久しぶりだね、と言って肩を軽く叩きながら笑い合う。
お互いに、何となく制服と違って大人びて見えて眩しいから、はしゃぎ気味になったのかもしれない。
「ーーじゃ、行きますか」
口火を切るのはいつも、背の高い陸上部の彼だった。
その言葉をきっかけに、駅から海の方向へ広い通りをぞろぞろと下り始める。
下駄を鳴らしながら、
少し翳り始めた日差しの潮風に吹かれながら、同じように花火大会に向かう大勢のひとたちに混じって歩く…。
広い幹線道路を渡って、大きな魚のオブジェのある臨海公園に着いた。
花火大会が始まる前、未歌たちは公園に並んでいる夜店を冷やかして、少しお腹に入れるためにつまみ食いをした。
男子たちは焼きそばを買ったり、フランクフルトを選んだり、旺盛に食べている。
未歌は帯を締めているせいかあまり食欲がなく、りんご飴は絶対に食べ切れないのでいちご飴を買った。浴衣に赤い飴が付かないよう注意しながら持ち歩いた。
史生子は時々、携帯でみんなの写真を撮っていた。
李理佳はそんなとき、必ずインスタ映えするポーズを決める。
そんなこんな、ちょっとしたことが何でも可笑しくて、未歌はずっと吹き出して笑っていた。
ーーー
「早めに場所取りしようぜ」
また陸上部の彼が言った。
この花火大会には、市内各地から人が大勢集中してくる。夏の大きなイベントだから、カップルから家族連れに至るまで、空に上がる大きな美しい花火を楽しみに、連れ立って観に来るのだ。
もうあと20分もしたら、臨海公園は人で埋め尽くされるだろう。
そしてせっかくなら、真上に上がる迫力ある花火が観たいのだった。ある種、ディズニーランドのパレードを待つのと似ているのかもしれない。
――マイクアナウンスで開始が宣言され、ひとつずつ花火が上がりだした。
上がるたびに、公園全体がどよめく。
花火は笛のような音を鳴らして空へと上がり、
どん、―どん、
と身体の奥まで響く太鼓の音をたてて破裂する。
迫力を増して次々と上がる花火。
6人は喋ることも忘れて、ただぽかんと空を見上げていた…
ーーー
ナイアガラの滝のような花火が現れると、もうすぐ終わりの合図だった。
その後、目にも止まらぬ速さで大小の花火がフラッシュのように炸裂して、大輪の花火が重なるように上がり、大団円を迎えてラスト。全部で1時間ほど。
……また来年、という流れになる。
「すごかったね、相変わらず」
「何回観ても良いよね…」
「仕掛け花火、去年と違うのがあったね!」
女子たちが感想を言い合うのを、男子たちは座っていた腰や膝のあたりを叩いて、土埃を払いながら聞いていた。
「このあと、どうする?」
――また陸上部の彼が言う。
「9時だろ、いい時間だよな」
――ちょっと格好をつけながら、さらさらの髪をかきあげる眼鏡男子。
「私、お茶くらいなら平気だよ!」
――ツインテールの李理佳の高い声。
「カラオケは遅いか…」
――天才肌の帰宅部男子。
口々に次のアイディアが出てきたが、未歌は人混みに正直疲れていた。
臨海公園自体、イベントなので煌々と照明が当たっている。静かな夜に戻りたくなっていた。
「―――ごめん、私、帰っていい?」
未歌が言うと、他のみんなが一瞬止まった。
「どうした、疲れた?」
――覗き込むように、パナマ帽の史生子が尋ねる。
「あー、じゃ俺、送るわ。
同じ方面だし…」
中学同窓の陸上部の彼が、未歌の騎士を引き受けるように、
返事を待って目を合わせていた…
✢✢✢
本日はここまで。
(熱気があり、体調悪いです)
夜にウォーキングをしていて、自分の
短編小説のテーマを決めました。
〇〇は、
後篇で明らかにします。
何せ初なもので、
うまくいくかは風まかせですが、
お手柔らかにお見守り下さいませ。
▶Que Song
小林桂/IfIHad You ※18歳です
こんなVocalのことば、
言われたくない女性って存在するでしょうか?
ふたりのその後を、
どうぞお見守り下さいませ。
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お読み頂き有難うございました!
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コングラボードなどの報告も溜まっていますが…
また、次の記事でお会いしましょう!
🌟I am little noter.🌟
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