エンゲージメント・サーベイを「武器」にするためのポイント
近年の人的資本経営ブームも相俟って、従業員エンゲージメントの重要性が認識され、今や従業員エンゲージメントなしでは企業の組織・人事は語れなくなりました。
従業員エンゲージメントとは、「自分が所属する組織と、自分の仕事に熱意を持って、自発的に貢献しようとする社員の意欲」と定義されます。
これは従業員満足度と異なるもので、企業業績の向上につながる従業員の自発的・積極的な貢献度合いを示す指標といえます。
従業員エンゲージメントの指標は統合報告書等で開示が進み、ESGの文脈においても非常に注目される指標になりました。
そして、エンゲージメント・サーベイは、組織・従業員の健康状態としてエンゲージメントの状況を診断する有効なツールであり、その使い方次第では、人事部やラインマネージャーにとって大きな武器になります。
本稿では、エンゲージメント・サーベイの現状と人的資本経営に最大限活用するためのポイントについてご紹介します。
エンゲージメント・サーベイを有効活用できている企業はわずか
実態をみると、多くの企業において、エンゲージメント・サーベイの集計と報告に注力するにとどまるケースが大半です。
身近な例で、健康診断を想像してみてください。
エンゲージメント・サーベイは、病院の受付時に提出する“受診表”とほぼ同じ役割を果たします。
これは、単に受診表を集計と報告をしているだけ、という状態となんら変わりません。
つまり、原因の特定(=診察/精密検査)、問題の対処・解決(=内科/外科治療)、フォローアップ(=経過観察/カウンセリング)、を行っていないのです。
このような状態においては、企業の組織・人事の健康が維持できるはずはありません。
エンゲージメント・サーベイの課題
また、エンゲージメント・サーベイを起点に、原因の特定、問題の対処・解決、フォローアップまで、しっかり一連のプロセスとして取組む先進企業の場合であっても、人事ご担当者からは以下のような問題点をお聞きします。
(質問)
ベンダーの質問文が抽象的・感覚的でわかりにくい。問う必要性に乏しい質問が多い。
(調査コスト)
外資系ベンダーの調査を使っているが、実施コストが高額。大企業で1回あたり数千万円後半台のケースも。
(調査スピード)
回答期日から集計・報告まで2∼3か月も要し、タイムリーに打ち手を打てていない。
(頻度)
2年に1回しか実施していない。
(課題解決)
スコアは経営陣に報告しているが、後はやりっぱなしで放置。本質的な原因を特定できず、有効な施策につながらない。
(現場の巻込み)
人事部と経営陣がデータを把握しているのみで、現場に還元できていない。
(効果検証)
KPIに設定しているため、スコアの改善そのものが目的化。本当に会社・組織のためになっているのかわからない。
エンゲージメント・サーベイを「武器」にするためのポイント
それでは、どのようにすれば、エンゲージメント・サーベイを起点に、原因の特定、問題の対処・解決、予防アドバイス、これら一連のプロセスに効果的につなげることができるでしょうか。
そのポイントは以下のとおりです。実際、当社がご支援する場合も、以下の点を踏まえて設計から課題対応を行っています。
(1)”適切な質問”を設計する
回答者が理解できない限り、正しい回答は得られない。ベンダーの定型質問をそのまま使用せず、自社の言葉に置換える”サーベイ疲れ”は回答の質を害する。
質問数は絞込み、多くても20∼30問程度にとどめる
従業員の意欲だけではなく、上司、人事制度、労働環境、カルチャー等の職場環境のソフト・ハードの両面を評価する
(2)調査スピード・頻度・コストのバランスをとる
エンゲージメントは鮮度が命。遅くとも回答期日から2週間以内に結果を把握する
エンゲージメントは時々刻々と変わるもの。年1回の調査では少なすぎる。年2回、できれば年4回のペースで調査を実施する
コストを理由に継続性を欠いては本末転倒。上記を実施する上で、コストに見合ったベンターを選定
(3)原因を特定しきる、中途半端にしない
仮説も織交ぜながら、結果の分析・読解に注力する。他社ベンチマークも参考にする
原因特定に必要な場合、追加でインタビューやサーベイを積極的かつスピーディーに実施する
(4)課題の対処・解決に積極的に現場を巻きこむ
課題の対処・解決に向けたタスクを固め、具体的な時間軸を定めた実行プランを作成する
経営陣への報告のみならず、現場の組織長に対しても、結果を丁寧に還元・共有する
現場の組織長にタスクを割当てて巻き込む現場ごとにムラが出ないよう、人事部は現場の組織長をサポートする
今後、人事部やラインマネージャーがエンゲージメントサーベイを活用することで、真の人的資本経営がより一層高度化されることを期待しております。
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