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ジョブ型人事制度の『落とし穴』|流行に騙されないための心構え

本稿は、ジョブ型人事制度の本質を知ることで、これまで導入検討を様子見してきた人事ご担当者に向けたものです。

決して「ジョブ型人事制度を導入すべき」といっているわけではありません。

本質を捉え、自社の組織・人事課題を直視したうえで、自社に必要な改革を達成する”一手段”としてジョブ型人事制度の導入を検討いただきたいとおもいます。


1.官民一体となったジョブ型人事制度ブームは足元も継続中

2020年ごろから、政府、経団連などの業界団体などで日本型雇用の課題に端を発したジョブ型雇用の議論が盛り上がり、富士通、日立製作所といった名だたる大企業がジョブ型人事制度を導入するなど、いわゆるジョブ型ブームが継続しています。

2023年に入っても内閣官房「新しい資本主義実現会議」における「三位一体の労働市場改革」を通じた、日本型職務給の導入などの検討が続き、この官民一体のブームは収束しそうにありません。

このブームは、日本企業の雇用環境の変化を受けた流れともいえますが、実質的には、年功序列賃金体系による報酬と職責の不整合、低い生産性、社員の高齢化、専門人材の育成・獲得の困難さ、多様な人材の活用など、複数の課題を背景としたものです。

これらの課題を共有する多くの日本企業にとっては、人事制度の見直しの必要性は避けて通れない状況となっています。


巷でよく耳にする論調として例えば以下のような声があります。

”職務記述書を作成して、職務評価を実施することが、ジョブ型人事制度である”
”ジョブ型制度は日本特有の組織・人事課題を抜本的に解決する魔法の杖である”
”欧米型のジョブ型制度を導入すれば専門人材が増えて社員の生産性が上がる”
”ジョブ型制度を導入しないと、人材獲得競争で劣後する”
“ジョブ型制度を導入すると、適所・適材を実現できる”


果たして、ジョブ型人事制度は、日本企業の人事を変革するための有効な処方箋となっているのでしょうか?

現場の経験から、うまくいっている事例ばかりとはいえず、ほとんどが当初の目的どおりにはうまく導入できていないというのが実態です。

背景として、厳しい現実に直面することから目を逸らしたくなる慣性力が働いて、本来の目的から逸れて、改革が中途半端に終わってしまう現象が多く見られます。


2.ジョブ型人事制度の3つの『落とし穴』

これまでの事例には、ジョブ型人事制度が機能しない理由として、以下の3つの落とし穴が存在します。

落とし穴① 目的や効果を明確化し、直視できていない

  • ジョブ型制度の導入自体を目的化してしまった結果、本来目指していた施策の効果が得られていない(某製造業)

  • 競合他社の動きにつられて制度を導入したものの、KPIを設計しておらず、導入効果を把握できていない(某卸売業)

  • 制度は導入できたが、本来の狙いの一つである人件費のコントロールや報酬配分のメリハリをだせていない(某製造業)

落とし穴② 膨大な職務等級制度の導入・運用コスト

  • 職務記述書を整備したものの、細かすぎて、刻々と変化するジョブの変更についていけず、膨大な量の職務記述書を現場で十分にメンテナンスできていない(某製造業)

  • 外資系ファームの職務評価を導入したが、導入コストのほか、組織変更の再職務評価など運用の手間とコストが膨大(某金融業)

  • 組織設計や人件費管理の方法を従来から変えていないため、ジョブ型導入後もヒトの処遇起点で組織が肥大化(某金融業)

落とし穴③ 変革できない人事運用、チェンジマネジメントの欠落

  • 人事配置(評価、異動、育成)の思想や手法が従来と変わらず、結局年功や年齢を起点とした配置を行っており、適材適所どころかジョブ型人事のメリットを活用できていない(某製造業)

  • 立派な職務記述書を作ったものの、実際にはその職務が務める人材が社内に足りておらず、人材の確保が片手落ちになっている(某情報通信業)

  • ダウングレードを避ける結果、上位グレードのポストが年齢の高い社員で詰まっており、結局は若手を抜擢できずに新陳代謝が不十分(某食品業)

  • 従業員の自律的なキャリア意識が薄いため、ジョブポスティングを拡大しても応募が少ない(某製造業)



3.ジョブ型人事制度を有効に導入・運用するための3つのステップ

自社にとって意味のあるジョブ型人事制度を導入するためには、どのようなことが必要になるのでしょうか?

大きく3つのステップが重要になります。


ステップ1 自社が解決したい人事課題と導入目的を明確にしたロードマップを描く

本ステップで大事な点は、経営としてどのような課題を解決し、どのような成果を得るのかを可視化することです。

このステップでは、人事部のみで検討するのではなく、経営陣や経営企画部、及び現場の関連部署も交えた議論が大事になります。

具体的なタスクとして、人事課題の現状分析、人事戦略と経営戦略との整合性確保、打ち手のメリット・デメリット整理、導入目的の言語化及びKPIの検討、ロードマップ作成、などがあります。


ステップ2 全体整合性を保ちながら高速で打ち手を設計・実行していく

本ステップは、各種の仕組み(職務評価、等級・報酬・評価制度、人材マネジメントの仕組み)を具体的に設計し、実行するフェーズです。

このステップでは、検討内容がより具体的かつ専門的になっていくため、全体の整合性がとれなくなりがちです。

そのため、ステップ1のロードマップ(全体像)を起点に全体タスクを整合的に横ぐし管理するPMOの設置が重要になります。

具体的なタスクとして、職務記述書・職務評価、等級・報酬制度設計、人件費シミュレーション、評価制度・運用の見直し、社内コミュニケーション、中高齢社員の処遇検討、組織設計の仕組み検討、人事部の役割・機能設計、などがあります。


ステップ3 制度導入後のモニタリング・運用を通じて継続的な改善をやり抜く

ジョブ型制度が導入されたら「終わり」、ということではありません。

人事は運用が最も大事な要素です。制度がよかったか否かは、運用次第で大きく異なります。

制度を運用する中で、見えてきた課題に真摯に向きあいながら、必要に応じて問題解決や制度の微修正を重ね、当初の導入目的を達成できているかを、KPIを基準にして、継続的に向上していく必要があります。


以上のように、ジョブ型制度導入をうまく実現するには大きな負担が伴います。意図と覚悟をもって、改革をやり遂げる企業のみが、ジョブ型制度の真の果実を得ることが得ることができるのです。


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