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アップデート前夜
オフィスにて。
「バカ、何、してんだよ! チーフに見られたらクビになるぞ!」
男は椅子から立ち上がると、顔を間仕切りから半分だけ出して、向こう側をのぞいた。
「大丈夫さ。チーフはいないから」
「一体、何を調べてる?」
「プログラムについてさ」
「自社のコードをコピペしたのか? 漏洩したらどうする!」
「それは、してないって。もっと効率的な処理は無いか探していただけさ」
「うちの検索エンジンを使えよ!」
「ダメだね。まともな情報が出てこない。検索してるだけで一時間があっと言う間に消える」
「まあ・・確かに、GTPなら、一発で答えてくれるけどな・・」
「だろ? 検索エンジンなんて、今更、使わねぇよ」
「静かに! 周りに聞こえるだろ。検索エンジン部門でそれは禁句だって!」
「それはそうと、聞いたか?」
「何を?」
「コアアップデートの話」
「ああ・・・広告収益が低下してるから、チーフ、上から何とかしろって言われたらしいな」
「何で低下してる?」
「やっぱ、GTP・・・だろうな」
「だろ? キーワード検索なんて、もう古いんだよ。今更、アップデートしたからって何になる」
「でも、チーフは、かなり気合入れてるみたいだが・・」
「広告収益が下がってるんだぜ。あいつの考えそうな事は一つだろ」
「広告主の投資額を増やす?」
「そうだよ。リターンがデカけりゃ、企業は広告を出すだろ」
「なるほど、企業を儲けさすんだな。つまり・・検索エンジンで広告主になりそうな企業系ウェブサイトを押しまくる」
「なりふり構わずな。そうすれば、企業も儲かる。うちも儲かる。一石二鳥」
「でも・・・それだとユーザー体験が悪くなるんじゃ・・」
「だからだよ。俺がGTPを使ってるのは。もう、うちのエンジンは、相当、ヤバい状態だって」
同僚は小さく溜息をつく。
「じゃあ、今回のアップデートは・・」
「アップデートの内容がどうなるか分からんが、多分、方向性は同じだ」
「利便性よりも、利益・・・だとしたら、GTPへのユーザー移行がより加速するんじゃ・・」
男は無言で頷いた。そして、同僚の肩を軽くつかみ、小声で囁いた。
「ここは、終わるぞ・・・」
オフィスにチーフが入ってくる。
「おーい。皆、集まってくれ! 次のコアアップデートについてだ!」
二人は立ち上がると、歩き出した。
「クソッ、こんなことなら、AI部門の面接を受けるべきだった」
「滅びゆく帝国にようこそ」