代用
会社の先輩からビールをもらった。小さめのかわいい瓶ビール。
なぜならこの前誕生日だったから。
誕生日を覚えてくれているだけでありがたいのにわざわざ物までくれるなんて。一番飲みたくなるタイミングになるまで冷やしておこうとガラガラの冷蔵庫の中に入れる。
そして5月下旬。暑くなったり寒くなったり気温が不安定の中、その日は25度を超える夏日。家に戻ると日差しで室内の空気があっためられてより暑い。とりあえず窓を開けて外の空気を入れる。春の風とも夏の風ともいえる曖昧な空気が入ってくる。喉乾いたと思い冷蔵庫を開けるも水を切らしていた。帰りに買おうと思っていたのに。家に帰ると需要を思い出す人間の仕様やめてほしい。
その時、もらった瓶ビールが気品高く横たわっているのが見えた。
今日しかないだろう、これを飲む日は。
早速開けようとするが、うわと声に出す。
栓抜きがない。
栓を抜くことを忘れていたのも愚かだと思ったし、今まで瓶を開けてこなかった事実もなんか悲しかった。今まで飲んでたビールは全部缶だったのか。
どうしようかと悩んでいるとき、スプーンが目に入った。これを使うか。
栓の下にスプーンを食い込ませて親指を支点にして梃子の原理で開けようとする。が、全く開かない。栓の周りのピラピラした部分がちょっと外にはねるだけ。の割に支点にしている指が痛すぎる。なんて非効率な仕事なんだ。
ネットで「栓抜き 代用」で調べる。と、家に栓抜きがない先人たちの知恵がたくさん出てくる。ベルトのバックルで開ける、割り箸で開ける。など。
色々試したがどれもうまくいかないというか、スプーンよりも栓に力が伝わっていない感じがしたので、結局スプーンに立ち返った。結局最初にやってた参考書を最後まで使った方がいいよと言われた時を思い出した。
いろんな方向からやるも外ハネを作るだけで最終的に松田聖子みたいな外ハネカットになった。ビールもだんだんと汗をかいてくる。私はキンキンに冷えたビールが飲みたかったのに。でもさっきかすかに「シュ」と音がしたので多分外の世界と中の世界がつながってしまっている。このまま保存するのは得策じゃない。
最後右の親指を犠牲にして思いっきり力を入れると、ぽろっと栓が取れた。
取れるならもっと「ポンッ!」と勢いよく取れて欲しかったな。
そのとき代用するってすごいカロリーのいる作業だなと思った。栓抜きがあれば2秒で終わる作業を、私は5分と親指を犠牲にしてやった。こういう栓抜きがあれば簡単にできること、みたいなの自分他でもやってそうだなと思った。時間がないんじゃなくて全部代用でやってるのかも。急に怖い。
ビールはフルーティでとっても美味しかった。
おつまみを思い出す前に飲み切ってしまった。
需要、隠れてないでもっと前に出てきて欲しい。