絶妙な漢字選びが冴え渡る、ぶっ飛び王道忍者活劇『機忍兵零牙』の面白さ
戦隊モノあるいは水戸黄門的面白さ!『機忍兵零牙』とは?
テレビの水戸黄門と戦隊モノって似ている。尺が決まってて、ヒーローと悪役がはっきりと区別出来る。紋切り型のセリフにキャラクター、お決まり演出と、ストーリー。ベタと思っていてもそのベタさが様式美となってる安心感。
月村了衛の『機忍兵零牙』は王道の様式美を楽しむ、正統派エンタメだ。もう文句なしに様式美を活かしきったベタさが大変面白いし、もうただただ楽しい。
もっと早くに読めば良かったと後悔しきり。それくらい読み終えたあとの高揚感がたまらないのだ。好きなヒーローが期待通りに活躍する、スカッとするエンタメを探しているならぜひ手にとって欲しい。
言葉選びが半端ねぇ、ぶっ飛び忍者活劇『機忍兵零牙』あらすじ
『機忍兵零牙』、どんな話かあらすじのご紹介を。遥か未来か昔かもわらからないとある国、城主が「無限王朝」に滅ぼされてしまう。
無限王朝はありとあらゆる次元に存在し、圧倒的な支配力を誇る絶大なる悪の帝国なのだ。これに対抗する、数少ないとある国の城主は死ぬ前に子どもたちを守るためにある秘策を打つ。
伝説上の存在であり、最強にして、異端の存在である光牙の忍に護衛を頼むのだ。
この命運を託されたのが光牙忍者の零牙である。迫りくる無限王朝の配下である骸魔衆を相手に、無事零牙は子どもたちを守り切ることは出来るのか?といった具合です。
どうだろう。なんか「無限王朝」「光牙の忍」とか「骸魔衆」とか、ちょっと中二っぽいというか、絶妙な漢字の使い方にムズムズしませんか?
この小説、パッと見は漢字ばかりで、言葉遣いもなんだか格式張って気難しい時代小説の形式を取っているのだが、その実中身はド級のエンタメである。タイトルだって機忍兵だし。
この世界では忍者というのは異次元からやって来た、超越技術を駆使して戦う異能者集団なのである。
だから忍術と言いつつ、その実態は空間を連続体として分節して瞬間移動をしたり、亜空間を行き来するというSF的というか、超人異能者バトルなのである。そこに面白さの秘密がある
普通なら横文字オンパレードになるところを、あえて漢字でいくという作戦が冴え渡っているのだ。例えば主人公零牙の名前も、亜空間の時空を表すゼロ座標が由来になっている。
そしてこの零牙の名前が、キャラクターの本質を表す名前になっているというにくい演出にニヤけてしまう。外連味が効いているのだ。
亜空間、虚数空間、次元破りなどのアイディアに対して、おおこの当て字にしたんですね?と読んでてニヤニヤしちゃうこと請け合い。
『BLEACH』や『NARUTO』の技名や語感が好きなら、きっと楽しく読めること請け合いだ。
王道ですが何か?楽しすぎる様式美
字面だけでも楽しいこの作品、最初に書いたようにとても様式美にかなった面白さに満ちている。
例えば登場人物も正義の味方、光牙者である零牙に、仲間の蛍牙、星牙、弓牙と統一された名前が冠されている。対して、適役の骸魔衆たちも六機忍と名乗り、いちいち名前が仰々しく、悪そうなのだ。(例えば十六夜鞠緒とか、骸魔死皇丸とか)
くわえて戦闘シーンの演出も大変分かりやすい。敵も味方も現れるとき、わざわざ「〇〇参上」と名乗ったり、必殺技を口にする。なんなら、俺の技を破れるか?と相手を挑発し、技の解説までしちゃう。
もうね、少年マンガの世界よ。入り乱れる敵味方の連係プレーに、必殺技、もう手放しに格好良いー!と叫んじゃう。
お気に入りのヒーローが活躍するときの胸キュン感を存分に味わえる。絶妙な造語能力によって作り込まれた異次元世界で繰り広げられる、異能者バトルをご堪能あれ。
確信犯なの?無意識なの?意味深なキャラたちの関係にニヤける
『機忍兵零牙』の魅力は上気に上げてきたように、オタク向きなネーミングや、ベタな展開もあるのだが、実はもう一つ推しておきたいとこがある。
それはキャラの関係性、全体を通してBLとGLが入り乱れる美味しい作りになっている。
まず主人公の零牙、作中に登場する親友への熱き思いがもう熱すぎる。深読みしなくてもこれBLじゃね?って読んでて、ニヤニヤしてしまう。
他にも落ち延びることになる若君と姫がいるのだが、それぞれが自分の護衛にご執心なのもポイント高い。特に姫と護衛の蛍牙の二人なんて、完全に身分違いの友情からの恋というか、甘酸っぱい青春モノみたいなノリでもうキュンキュンする。
がっつり恋愛にまで至らない、けれども同性同士の言葉にできない熱き思いを見たい、キャーキャーしたいなら読んでみて損のない一冊です。
ジェンダー的にも読んでてストレスフリー、『機忍兵零牙』を進める理由
上気とも関係しているのだが、この本は読んでてジェンダー的にイライラするところがない。理由の一つには男女の唐突な恋愛がないのと、登場人物たちが忍という設定で、能力の冴えで実力が評価される世界観になっているのが大きいと思う。
おかげで読んでてとてもストレスフリーだった。敵も味方も男女の比率が半々であるのもいいし、個々人の実力で優劣が決まっているので、劇中の会話にイライラしないですむ。
単純に名前だけで見ても弓牙、零牙、星牙、蛍牙とぱっとみ誰で男女の判別が出来ないし、色仕掛け的なシーンも一切ない。惚れた腫れたの強い感情は男女よりも、同性間の関係性に組み込まれているおかげで、異性間の結びつきが希薄な空気になっているのだ。
せっかく話が面白いのに、あーここだけ微妙だなとがっかりせずに読める。地雷がない作品としてもおすすめしたい作品です。