スノードロップツリーの実を求めて #シロクマ文芸部
木の実と葉っぱを集めて何しよう
木の実と葉っぱをたくさん集めて何しよう
木の実と葉っぱをたくさん、たくさん集めてトトのお墓に供えましょう
翡翠色に輝く特別な実と深緑色した葉をトトの化身の鳥たちに与えましょう
この歌は、マヤが物心ついた頃から母親が子守歌として唄ってくれた歌。 マヤのトトは、マヤが生まれる前に遥か遠くの国へ行っていると聞いていた。
マヤは神への祈りの時、いつも神に問いかける。
「何故、貴方は私のトトを連れて行ったの? トトの化身は何処にいるの?」
もちろん神がマヤの問いかけに対して答えてくれるはずがない。
世界が移り変わるように、森も大きく変わろうとしていた。
開発という嵐が大木を揺らし、白く淡い花を吹き飛ばしていく。
たくさんの開発者たちが神聖な森へ、ぬかるみで付着した土を落とすことなくズカズカと入り込んできて、スノードロップツリーに刃金を振り下ろしていく。
「あの樹が切り落とされてしまう前に、トトのお墓に供える木の実と葉をたくさん集めなきゃ」
マヤは夜が明ける前に家を出て、ひたすら南の森へ向かった。
真っ暗闇の中、ペガサス座の四辺形だけを頼りに前へ、前へと道なき道を進んだ。
ひときわ明るく光る木星の下に、金星が見えてくる頃には東の空がうっすらとピンク色に変わり始めていた。
マヤが、もうこれ以上歩けないと諦めかけていた時、眩い光が射し込んで顔を逸らした。フッと視線を上げた先に、翡翠色に輝く実をたわわにつけたスノードロップツリーが静かに立っていた。
マヤはその美しい実と、トトが眠っているという深い海のような濃い緑色した葉をたくさん集めた。背中の袋に詰め込めるだけ詰め込んだ。そして、開発者たちが来る前にスノードロップツリーに別れを告げ、森の外れにあるトトの墓へ向かった。
「あれ? 道を間違えたかな?」
そこに鎮座してあるはずのトトのお墓が見つからなかった。
マヤが引き返そうとして立ち上がると、一点の陽に照らされ地に落ちていた木の実と葉が手招きをするかのように輝き出した。
そこへ一羽のヤマガラがどこからともなく飛んできて、地面に落ちている木の実をつつき出した。
その姿を見ていたマヤは、急いで背中の袋から集めてきた木の実をヤマガラの近くに置いた。
「トト、遅くなってゴメンね。たくさん食べてね」
しばらくマヤはヤマガラが木の実をついばんでいる姿を見つめていた。すると、もう一羽ヤマガラが飛んできて先ほどの個体と仲良く木の実を食べ始めた。
「トトは、鳥の世界で幸せに暮らしているんだね。よかった」
マヤは心が満たされていくのを感じ、家路につくことにした。
「カカが心配しているといけないからね」
マヤは家路へ急ぐ間、ずっと母が唄ってくれた子守歌を口ずさんでいた。
マヤたちが森を残して欲しいと望んだところで、開発の手は緩むことはなかった。
けれど、あのスノードロップツリーはマヤの村を大きく取り囲んで、たくさんの木の実と葉をつけ、村の人たちの生活を守り、
そして、豊かにしていった。
#シロクマ文芸部 #木の実と葉 #賑やかし帯
小牧幸助さん
企画参加させていただきます。