時の旅人は語り、そして #ふぉれすとどわあふ
歩行者bさんの①旅人は語る@ふぉれすとどわあふに続きます。
時空旅行を終えたケイと旅人。
森の小さな雑貨屋『ふぉれすとどわあふ』には、時空旅行へ旅立った二人を心配して、店主のミユをはじめ森の住人たちが集まっていた。
旅人はケイを抱きかかえて戻ってくるなり開口一番、
「あれ、みんなどうしたんだい?」
と言いながらケイを床へ下した。
「どうしたんだいは、ないんじゃない? みんな、すごく心配したんだから」
ミユが少しムッとした表情を浮かべ、旅人に言った。
「前にも言ったが、心配するならブラックフォレストに行ったシドニーとヨークを心配した方がいい。私たちなら時空旅行を何度となく繰り返してきたのでね」
「そういえば、旅人さんはどうして時空旅行ができるようになったの?」
美人な仔リスのリリが訊いた。
「羽根も無いのに、飛べるってことでしょ」
青い鳥のルードリッヒが付け加える。
「人間でもタイムワープができるなんて、不思議」
とミユがみんなには温かいココアを、旅人とクマさんにはハチミツ入りのホットビールを振舞いながら言った。
「ああ、懐かしい味だ」
旅人はミユが振舞ってくれたホットビールを一気に飲み干すと、ポツリポツリと時の旅人になってしまった顛末を語り出した。
「私は今から500年以上前の時代からきた。私はビレートン国君主で、名をオーウェンと申す。魔術師たちがやってくるまでは、みな平和に暮らしていた」
「王様なの?」
オドオドうさぎくんが訊いた。
「今は、違うよ」
「じゃあ、何者になったの?」
今度は、ツンツンきつねくんが訊いた。
「ただの旅人さ」
旅人は、空になったグラスを握ったまま答えた。
「王様に戻るには、どうしたらいいの?」
床に寝そべっていた仔猫のケイが旅人を見上げながら訊いた。
旅人はケイの可愛い瞳を見つめ、そして空のコップを強く握りしめた。
「ブラックフォレストへ行って魔女から『薬草の書』を取り戻し、悪魔に変わってしまった皆の優しい心を取り戻すまでは」
小さな雑貨屋『ふぉれすとどわあふ』にいるみんなの視線が旅人に集中している。
「時の旅人だ」