頬を掠める竜胆の風 #シロクマ文芸部
風の色を肌で感じる。
ようやく、その感覚がわかるようになった。
頬を撫でるほんの少し冷たい秋風の中に、時折、夏も忘れさせまいとの強さでパンチを与えてくる。これでもか、これでもかってね。
それはまるで、風がその時の気分で歌を歌っているようだ。
僕は何をして生きてきたのだろう。
やっと他人の気持ちがわかる大人の年齢になったというのに、ちっとも君の気持ちをわかってあげられなかった。
人には負けたくなくて、頑張っていた自分と君を比べていた。
「何をしている。頑張れ」
そんな言葉をかけるべきではなかった。
「あなたは唯一無二の天才かもしれない。だけど、あなたは多くの過ちを犯しているわ」
「僕は決して天才なんかじゃない。努力に努力を重ねて今の地位を獲得したんだ。君こそ真の天才じゃないか。どうして病いと闘わないんだ」
君は澄んだ美しい瞳を潤ませながら、僕を憐れむように見つめた。
「私はあなたという大きな庭に植栽された、特殊な花卉だったんだと思うわ」
「どういう意味だい?」
「風の色に逆らわず好きなように道端に咲いていた私という花は、枝から切り離されたくさん変形させていったのよ」
「僕は、ただ君を見つめることしかできなかった。
「恋は目ではなく、心で見るものって、シェイクスピアも言ってたわ」
焦点の合わない君の瞳がひたすら一点を捉えている。
「今日の風の色は、この病衣と同じ竜胆色をしているわ」
君は、本当に風のように爽やかで
そして、強い人だ。
僕も風の色を感じてみるよ。
了
#シロクマ文芸部 #風の色
小牧幸助さん
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無職で色無し状態だニャ~ン😭