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凍て雲に見えたもの #シロクマ文芸部


 寒い日に、ふと空を見上げた。
 そこには、寒くて凍りついてしまったかのような雲が辺り一面に鎮座していた。
 今にも雪が降り出しそうな雲は、て雲というのだとか。薄墨色した空に浮かぶ雲は、愛しい人をなくした悲しみに打ち震えている姿のようだった。寒さに震えているだけではないということが、私にはわかる。

凍てついたように動かない雲

 昨日まで屈託のない笑顔を作っていた太陽は消えて、涙雨が都会の路に降りては失せる。その涙雨は、凍て雲の中で冷やされて、綿菓子のような沫雪に変わった。
 ゆらり、ゆらりと薄墨色した空から車列の中へと落ちていく。車の流れに飛ばされて沫雪は、すっと消えてしまう。
 肩が痛くなるほど腕を伸ばして沫雪を捕まえようと頑張ってみても、シュッと飛ばされて地上に到達する前に消滅する。
「待って、行かないで!」
 私は思いきり叫び、願う。

スチールグレイの街の、鈍色の空

 薄墨色した空は露草を混ぜ、鈍色にびいろに変わっていく。
 凍て雲からは誰かが流した涙のごとく、たくさんの濡れ雪が落ちてきた。
私の肩に獲りつくと、じっとりと濡れていく。

 雪が溶けるように、悲しみや孤独も水のようになって、いずれ空へと戻っていく。
 すべてが変わる時は、必ず訪れる。
 昨日まで固雪が当たるかのように嘆いていたことが、風巻しまきとともに流されて、すっきりとする。

「笑っていてほしい。この世界とともに」

 これからも、恐れず空を見上げる。
 再び、にっこりと笑う太陽を見つけるから。

                   了




#シロクマ文芸部 #寒い日に #賑やかし帯
小牧幸助さん、企画に参加させていただきます。
よろしくお願いいたします。


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緋海書房/ヤバ猫
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