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キングメーカーと見る先は #青ブラ文学部
スキャンダル。それは、著名人は覆い隠したい事象だ。とくに、これから政界に乗り込もうとしてる人間にとっては致命傷になる。
「何だ、さっきから」
デビッド佐山は、キングサイズのベッドからむっくりと起き上がると、不機嫌な声をあげた。
「あれをするな、これをすなとか。俺はこの国のトップになる男だぞ。君が、そう言ったんだぞ!」
「そうです。そのためには、今が大切なんです」
ナオミ・ハリソンは、クリーニングから戻ってきたタキシードとシャツを手に持ってベッドサイドに立っていた。
「先生のように若くして政治の世界に飛び込んだ多くの方が、壊れていきました。ほんの少しの過ちで」
そう言うとナオミは、デビッドが横になっているベッドから毛布を引き剝がした。
首元や胸元にうっすらと赤いあざが見える。また、こんなにもキスマークをつけて、困ったものだとナオミは思った。
「今日のチャリティー会食は、このシャツにこちらのカフスをつけていらしてください」
「色々と指示されるのは、好きじゃない。ずっと指示する方にいたんだから」
「そうですね」
ナオミは〇〇党から直々にデビッド佐山のキングメーカーに任命されて、1年にも満たない。しかしその間、何度デビッドのスキャンダルをもみ消してきたことだろう。根は悪い男ではないが、とにかく女にはだらしなかった。
生活困窮者のために無償で手術を施したり、他の医師が拒否したHIV患者や様々な感染症リスクのある患者を受け入れては名をはせた若き天才外科医。金と名誉、ビジュアルを併せ持った男。モテないわけがない。政治家になるために生まれてきたような男だとはナオミも思う。せめて、予備選挙が始まるまでに身を固めてほしいと願った。
![](https://assets.st-note.com/img/1718703627021-kXBdgzzWZc.jpg?width=1200)
「本日、エスコートしていただくのはメリッサ・スミス嬢で、6時にお迎えにあがります」
ナオミが電子パッドから顔を上げると、デビッドは黒のボクサーパンツ姿でシャツに袖を通しているところだった。
「断ってくれない」
「それはダメです」
「なぜ」
デビッドはパンツ姿のままシャツのボタンを絞めている。見るつもりはなくても自然と彼の股間あたりに目がいってしまうナオミ。
「ミス・スミスは、先生を応援してくださっている地元の有力者のお嬢さんですよ。票を集めるのにご尽力されてる方の」
ナオミがそこまで口にすると、デビッドが彼女へ近づく。ナオミが一瞬たじろぐとデビッドは彼女の耳元へささやいた。
「これ以上、スキャンダルを増やしたくないだろ」
「スキャンダルよりも余計やっかいなことになります」
「俺が君をエスコートすることが?」
「え?」
ナオミが顔を上げると、デビッドが右の口角を上げてニヤついていた。
「俺は、政治の世界では素人だ。君と一緒でなければ、また醜態をさらしてしまうし」
デビッドはナオミの身体を引き寄せた。
「君が俺に苦痛を与えた。と同時に、信念を築かせてもくれた」
「これからは、もっとたくさん苦痛を浴びせられます」
「君が浴びたであろう、その痛みを俺も知ったから」
「その痛みの先には、あなたが望む世界が見えてくるはずです」
「それには、君を通してでなくては見えないんだ」
大勢の記者や政財界の大物が集うチャリティーパーティーの会場に、次期大統領候補と、その良き理解者でありパートナーが堂々とした足取りで現れた。今回ばかりは醜聞好きな大衆も、美談に書き換えられただろう。
了
#青ブラ文学部 #スキャンダル
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