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コンドルとアジサシの供宴 #青ブラ文学部
春一番が吹き荒れたあとの空は、清く澄み渡っているような気がする。
それはきっと、目にする醜いモノを綺麗さっぱりと忘れさせるため。いえ、目に映るモノだけでなく、消し去りたい凝りをも抉り出してくれるように、吹き飛してくれるから。
私が鳥だったら、あの強い風に乗って貴方の元へ飛んで行けたのかしら。私は、いつもケージの中から大空を羽ばたいている貴方の姿を恨めしそうに見つめていた。そのあとを追いたくて、必死に羽ばたいた。ケージの扉が解かれ、私は外界に放たれて、喜びと不安で打ち震えた。
すでに上昇気流に乗って空高く飛び去ってしまった貴方を捕まえるには、コンドルのように気流に身を任せ、風に流されていくしかない。
私は羽を切られケージの中で守られ飼われていた小鳥に過ぎない。この姿では貴方に辿りつく前に命が尽きてしまう。だけど、貴方が選んで歩んでいる世界を私も見てみたい。貴方のように大空高く舞い上がり、下界を俯瞰してみたい。天高く、もっと高く飛び、青き瑞に覆われた大地を目指したい。その優れた臭覚と視力で、弱っている者を探し、餌とする貴方のように。
「君には、僕のような汚れ仕事は向かないよ」
貴方はウィスキーの入ったコップを置いて言った。
「どうして、そう断言できるの?」
私は少し強めなトーンで聞いた。
貴方は、キューバ産のシガリロに火を点け一服すると、吐息とともに煙を吐き出した。
「君は、ケージの中で育った手乗りインコさ。僕は、弱りかけていたり、死骸をむさぼるコンドルなんだ」
「変な例え方をするのね」
「僕らにピッタリな例えだと思うけどな」
貴方が吐き出す煙からスパイシーな香りがする。
「これだって、この仕事の報酬みたいなものだ。大臣にとっては高い1本になったんじゃないかな」
ユラユラと狼煙のような煙をあげるシガリロを見つめて貴方が言った。
「官僚なんて、所詮、政治家の掃除屋にすぎない」
「でも、私も貴方と一緒に努力したいし、ずっとそばにいたい」
貴方は私の顔をじっと見つめた。手にしていたシガリロの火を消すと、静かに私の手をとった。
「断崖絶壁の洞窟の中で、この先ずっと生きていくんだぞ。君は耐えられないよ。僕は、君にそんな生き方をさせたくはない」
「大丈夫よ。私は地球と月を3往復できるほど息の長い渡り鳥だから。そう簡単には挫けないし、飛ぶことをやめたりしないわ」
私が放した言葉に貴方は刹那息をすることも忘れているようだった。ふっと、一息吐いたあと、口角を上げた。
「君の方がよほど面白い例え方をすじゃないか」
「同じ鳥同士、風に乗って飛んでいきましょうよ」
私たちは、春風に乗って渡ってきて、同じ巣穴に辿りついた。種別は違うかもしれないけれど、この病んだ世界で生き延びていかなくてはいけない。次の世代に、その先の繁栄のために、貴方とともに腐った餌も啄ばんでいく。そして、再び、上昇気流に乗って、大空高く舞い上がる。
了
#青ブラ文学部 #鳥だったら
山根あきらさんの企画に参加させていただきました。
とても楽しく、難しいお題でした。
ありがとうございました。
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