感情の色見本 #青ブラ文学部
人の感情に色彩が載せられていたら面白いなと、ふと考えた。
しかも、その色彩を見ることができたなら、どんな感じになるのだろう。
人によって感情を露わにする人、感情を押さえ込んで我慢をしている人がいるから、感情の濃淡が見えたら嘘もすぐに見抜かれてしまう。空想科学じゃないけど、君に感情の色見本を見せて毎日選んでもらい、僕は君の感情の濃淡を見ることことができるメガネをかける。
もちろん、君には内緒の仕掛けだけれど、後ろめたさを感じちゃダメなんだ。だって君は、まだ本当の気持ちを僕に見せてくれてはいないのだから。
「この花に色をつけるとしたら、どんな色合いがいい?」
「淡い感じのピンク色、かな」
僕は淡い色合いのピンク色のマーガレットの花を差し出す。
君はニッコリ微笑んで一輪の花を受け取る。
でも、君の手の中の花の色は、朱色へと濃度を高めている。
「本当は、赤色の薔薇が欲しかったんじゃない?」
「なぜ、そう言い切れるの?」
僕は君の驚く顔を確認してから、おもむろに深紅の薔薇を差し出す。
君は狐につままれたような顔をして僕の手元と顔を交互に見ている。
「私を試しているの?」
「え?」
君はピンク色のマーガレットの花と深紅の薔薇をじっと見つめながら言った。
「あなたは、私の感情に魔法をかけた。私たちの感情がどんな色を付けられていようと色は交じり合えるし、交じり合えば合うほど色濃くなるわ」
「君も、感情が見えるの?」
君は、今度は鳩が鉄砲を喰らったような顔で僕の顔をマジマジと見上げた。
「感情って、視覚で確認できるものじゃないでしょ? 心で感じるものだもの」
僕は次の言葉がでなかった。
「とても深い色の感情の中に上塗りされた真実の感情が隠されているけど、お互い何かを感じてビジュアル化していくの。私は失恋した時も、あなたに出会った時も、そして」
「そして?」
「こうして、恋に落ちていく時も、心の感情の濃淡が見えてくる。だから、本気で私を見ていて、本気で私に恋をして、そうすれば」
「そうすれば?」
君は僕の目の前にピンク色のマーガレットと深紅の薔薇の花を持ち上げて、言葉を繋げた。
「愛する人に色見本を押し付けたり、感情の濃度を見る色メガネなんて必要ないのよ。感情を上手に使っていけばいいの」
そう言うと、君が持つ二輪の花は純白に変化していった。
「だけど、感情って気まぐれだから、あなたと恋におちるかは約束できないわ」
そう言うと、君はテーブルに二輪の純白の花を置いて微笑み、店をあとにした。
了
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山根あきらさん
企画に参加させていただきます。