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深緋色の思ひに月冴える #シロクマ文芸部


    月の色が変わる。いつか。
 長い間、帝都の夜空には、つるばみの実を鉄媒染で染色したような、黒橡色の月しか昇ってこなかった。 
 それは、黒一色で統一された朝服を纏い遺恨の念を抱えた黄泉の帝王、燈橡とうしょうが、延喜式の際に地上に舞い降りた。そして、皇位の座を奪ったからだ。 
 王家へ輿入れしたばかりの理須子りずこは、恐怖と憎悪に対峙した。
「其方には、門口すら通させはいたしません」 
 理須子は毅然とした態度で、黄泉の帝王・燈橡へ言い放った。 
 理須子の言葉を受け、燈橡は鼻先をくしゃっとさせた。
「何をほざいておる。この下等な雌蜘蛛めが!」
「それがお分かりになっていて、わたくしを抱こうとのお考えを?」
 燈橡は理須子の言葉が気に入らなかったのかムスッとした表情を浮かべた。
「我の周りには、常に美しきモノで埋めていたい」
 燈橡はニタリと不気味な笑いを浮かべた。
「たとえ、ヤナギダテを食するような生活に堕ちたとしても」
 理須子は、少し言い淀んでいるようだった。
「何だ、先を言ってみよ」
 燈橡は、顎をしゃっくった。
「こんな汚らわしいケモノに抱かれるぐらいなら、隠世かくりょにて思ひを寄せた彼方と契りを結ぶ」
 そう言うと理須子は元皇帝・符蘭都ふらんつを亡き者とした血に飢えた『月の涙』と呼ばれる黄金に輝く短銃にて、自らの命を絶った。

 月の色が緋色に変わる。
月は、たくさんの色を持っている。
持っているというのは、語弊がある。
月は、その色の多くを他者の力で替えていく。

 今日は左側を少し削った月が、深緋こひき色に染まる。
それは、人々が想像だにしなかった事態の幕開けを意味していた。

深緋色の妖しい月が



#シロクマ文芸部 #月の色  
小牧幸助さん
企画に参加させていただきます。


サポートしてほしいニャ! 無職で色無し状態だニャ~ン😭