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アスペルガーの娘に生まれて25

母は、頻繁に電話をかけてよこすようになった。

「早く別れて帰って来なさい!」

「子供でもできたら大変でしょ!」

またか……。

生理が遅れて、微熱が続いた事があった。
それをポロリと電話口でしゃべってしまったのだ。
これがとんだ失敗だった。

業を煮やした母が博多から出てきた。
6畳の狭いアパートの部屋、母と彼と私。
彼に白封筒を差し出す母。
察した私は

「Kと結婚したいの」

と強く、何度も繰り返した。
母は彼に

「あなたたちが一緒になっても、2人とも苦労するのは目に見えてる。お互いの為に、考え直して。」

とぺこりと頭を下げた。

広がる静寂。

彼は封筒などは受け取りはしなかった。

数日後、彼から

「考えなおそうか?」

と。
私は声をあげて泣いた。しゃくり上げて泣いた。

人の群れが行き交う東京駅。聞きなれたクリスマスソング。煌びやかなイルミネーションの中、幸せそうなカップルに目を背ける私。新幹線のホームに、ボストンバックひとつで、ぼんやりベンチに座っていた。いるはずの彼は隣におらず、そこにいたのは白封筒を渡そうとした人だった。

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