私はよくかわいいといわれる〈26〉
舞香と絵美里の部活の休みが重なるときが2週間に1回あるので、その時は放課後3人でなんとなく過ごすことがある。
教室のいつもの場所で机の向きを変えコの字を作る。絵美里は日本刀と西洋刀が斜めに交差している表紙の「ドラゴンキラーと他世界解釈」なる題名の本を読んでいる。絵美里の向かいに座った舞香は絵美里から見て真横に体を向け、後ろの黒板に向かってうつむき、通信機器でネット将棋を指している。そこからおっさんの声で「いびしゃあなぐま!」と発せられてどうやら何かの構えが完成したらしい。
たった3席の議長席に座っている私は教室の後ろの黒板を眺め、司令官のように手を組んで両肘を机に付き座っている。
それぞれ思い思いの時間を過ごしながらも同じ空間にいる私たち。4月に出会った頃はお互いの趣味をさらすことなく表面的な会話をしていたような気がする。初めのころは隠していたわけではないが遠慮があったのは事実であろう。いまは無駄な会話は一切消えた。教室には私たち3人しかいない。
「舞香…」私はうつむきながら将棋を指している舞香の背中に向かって言った。
「なんだ?」画面から目を離さず答える。
「何キロ痩せた?」
「25」
ということは今50キロくらいか
「ピッチャーになったの?」舞香はソフトボール部だ。
「ん?キャッチャーのままだが?」
「ご、ごめん…」私のジャブはアサッテの方向に空を切る。
「いや…」
気にするなという意味だろう。
「お前金井君のこと好きだろう?」
「言うなよ?」
別に誰にも言わん。言わんが…