私はよくかわいいといわれる〈14〉
「あれ?太宰治も読んでるんだっけ?」森本君はポケットから手を出して、今度は頭の下で手を組む。
「読んだよ。人間失格」私は先日その小説を金井君から借りた。
「どうだった?」
「面白かったよ。最初に主人公の写真の話があるんだけど、イケメンなんだけど、仮面のような笑顔に対して、血の重さというか、命の渋さと言うものがないと表現されていて、うまいなぁと思ったよ」
私は一見きれいだが、人間性の希薄さに対してそう表現するなんて素直にすごいなぁと思っていた。昨今、そういう写真ばかりが目につくようになったと思い、人間失格の趣旨とは関係ないのに何か太宰治が予言者のように思えてならなくなっていた。
本を貸した本人の金井君は私の感想に満足そうに頷いている。ジュースを飲み干した金井君は股関節の体操みたいに体を前後にゆらして両膝を上下にジタバタさせている。俗に言う貧乏ゆすりだ。
「そう言えば小説書いてるんだっけ?」森本君は空を見続けたまま聞く。
「2つほど書いたよ。短いのを」私は森本君の空を見上げたままの顔を見た。
「ええ!凄いじゃん聞かせてくれよ。題名は何ていうの?」森本君も私に目を向けた。
「1つは『合唱コンクール』で、もう1つは『君の彼女は魔女なんだ』です」と私は答え『合唱コンクール』の方から話し始めた。