私はよくかわいいといわれる〈52〉
ごちそうさまと軽く言って弁当箱の蓋を閉め、箸をケースにしまう。絵美里はライトノベルを取り出し、舞香は通信機器を取り出す。そしたらおそらく軽音部と一緒に昼食をとっていたであろう金井君が帰ってきた。
この前の夢に出てきた金井君が気になり、私は金井君のアグレッシブなマイナス思考の理由が知りたくて目でここ座れよと合図する。
金井君は、ん?と一旦ぽかんとしてから、うん、と理解したようでこっちにやってきた。
「そういえばさあ、金井君て中学のころ部活とかやってなかったの?」と聞けば
「バスケットだよ」と答えた。
「なんだそうなの?なんで高校でやらなかったの?」
「う~ん、なんでだろうなあ。別に何かに勝ちたいと思わなくなったからかな~」
「何?じゃあ負けるのがもう悔しくなくなったとか?」
「そりゃ負けるのは嫌だよ。でもこっちが勝つってことは誰かが負けるってことでしょ?結局誰かが敗者になるわけでそれが誰であろうとそこに目が向くと、やっぱり気持ちのいいものじゃないよ。だから負けるのも嫌だけど勝つのも嫌なの」と言った。
あ、こいつもうそろそろ死ぬなって思った。こいつは野生だったらとっくに死んでるやつだ。優しさと弱さがこいつはいつも混在してるんだよな~と思いつつ
「金井よお前はまだ高校生じゃないか。なんでもっとギラギラしないんだ…」と、とうとう呼び捨てで言ってしまったが、金井君は「う~ん」と難しそうな顔である。
「あそうだ!将棋は?将棋はやってるじゃん。勝つとうれしいでしょ?」となぜか、どこか息子のいいところを探そうとする母親の心境が芽生える。
「まあ、将棋はねえ。部活じゃないしネットだと相手もわかんないし、まあトランプみたいなもんよ。趣味とか遊び」と答える。
なんか設定がガバガバだなと思ったが、まあ要はもう頑張りたくないのかなと思った。そしたら金井君は
「人生って勝負なのかなあ?勝負と捉えられたら楽なんだけど…えみりん、味噌汁の余りもうない?ない?あそう」などとほざく。
なんだその本気出せば勝てたみたいな発言は…相変わらず甘い。が、その一貫した甘さが、何か強い信念として見えなくもないのが不気味だ。
とにかく彼の発言は、逃げ、弱音、言い訳という目線で見ればそうとしか見えない。そうとしか見えないんだよな~…