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私はよくかわいいといわれる〈54〉
今日は金井君と昼、2人で屋上にいる。
「やっぱ太陽のあたたかさって、暖房器具のような人工的なあたたかさと全然違うよね?なんか包まれてるというか…有機的なあたたかさなんだよね」と金井君が言った。
金井!わかっとるやないか!老後生活だけならこいつと過ごせなくもないと思ってつい私も大きなリアクションをとってしまった。そしたら金井君は軽音部で仕入れた音楽の知識を披露したいらしく私にパワーコードがどうだとかオーバードライブがどうだとか言っている。金井君の本当に言いたいことはこっちの方で、でもまず私のテンションを上げてから自分の話したい内容に誘導するというテクニックを身につけたようだ。
金井君は金井君で私を深く理解し始めているらしく、一応うれしくないわけではないが、こいつにうまく操られた悔しさの方が大きいかもしれない。
でも私は「うん」「へー」「ほー」「おう」の4種類の返事を適当に組み合わせ、たまに「え?ガチで?」をサービスで入れてやれば、その「え?ガチで?」が金井君の言ってほしいタイミングにことごとく決まっているらしく金井君はノリノリである。
「あ、気になるよ。スネアドラムの下にはバネが張ってあってそれがあるからタンていう乾いた音が出てるんだけど、そう、一番多く鳴ってる太鼓の音のやつ。そのバネを外すとトンていう音になってタムタムの音になっちゃうの。そのバネの本数を少なくするとタンからトンに近くなるんだけどパンクバンドのスネアの音はトンに近いタンなのね。だからこのバンドってスネアの下のバネって何本何だろう?ってけっこう思いながら聞いたりしてるのよ」
と例えばこんな具合である。そして、一通り話しを聞いたので、私のサービス時間は終了し、この知識は別に知ってても知らなくても何の得もないし、これからの私の乏しい音楽鑑賞に何の影響もないであろうというニュアンスを存分に含んだ「おう」を私は返した。