【創作童話】かぜの子びゅうん
あるところに、びゅうんというかぜの子どもがいました。
びゅうんは、そうじが大キライ!
いつもビューンとかぜをおこして、へやをちらかしてしまうので、このなまえがつきました。
びゃうんのかぜがふいたあとは、もうみんなめちゃくちゃです。
ジュースの入ったコップはわれて、花びんもひっくりかえって、せっかくほしたせんたくものも、またどろだらけです。
おかげで、びゅうんがいるところは、いつもごちゃごちゃしていました。
それでも、びゅうんはきにしませんでした。
へやがめちゃくちゃになるのが、おもしろかったからです。
それに、びゅうんはかぜの子どもでしたから、ゆっくりすわるところなんていらないのです。
びゅうんはいつも、だれもすんでいないいえのやねの上でねています。
すきまに草がはえているので、ちょうどいいまくらになるのです。
そんな、かぜの子びゅうんのいるいえのとなりに、ひっこしてきたにんげんの男の子がいました。
男の子はそうじをするのが大すきでした。
いつもテレビの上のほこりをふきとり、朝はやくから、はたきをかけていました。
朝食のミルクのあとは、カップをていねいにみがいてピカピカにしました。
それから、ウィーンウィーンと大きな音をたてて、そうじきをかけるのがだいすきでした。
その日もウィーンウィーンと、そうじきの音が聞こえてきて、びゅうんは目をさましました。
かぜの子びゅうんは、そうじきの音がキライでした。
夜おそくまで、公園のおちばをまいあげたり、あきかんをころがしたりしてあそぶのがだいすきなんです。
ですから、びゅうんは朝になるとおきられなくて、まぶたがおもくてたまりません。
そんなときに、ウィーンウィーンと音がしたら、ねむれなくなるじゃありませんか。
「だれだ。ねむるのをじゃまをするのは!」
びゅうんは、となりのいえの中をのぞきました。
男の子は、びゅうんに見られていることにきがつきません。
むちゅうでそうじきをかけています。
顔をあらったら、ぬいだパジャマといっしょにタオルをあらってほしました。
スリッパをはくまえに、おもてとうらをみがきました。
Tシャツにアイロンをかけました。
びゅうんは、ふしぎに思いました。
「なにがおもしろいんだ? あそんだほうがたのしいのに!」
すると、びゅうんはいいことを思いつきました。
「よし、この子のいえの中をめちゃくちゃにしてやろう! きっとこまった顔をするにちがいない」
びゅうんはわくわくしてきました。
男の子はせんたくものをほしおわると、カギをかけて出かけていきました。
びゅうんはかぜの子でしたから、へやのカギがかかっていたっておかまいなし!
すきまから、するりと入ってしまうのです。
「こんなキレイなところなんて、ひさしぶりだなあ」
びゅうんがすんでいるいえは、いつもちらかっています。
こわしたり、たおしたり、ひっくりかえすのがだいすきなびゅうんは、ほとんどのものをこわしてしまいました。
いまはもう、こわすものもなくなっていたので、すっかりあきていたのでした。
なにか、ほかにこわすものはないかとさがしまわっても、なにもないのです。
びゅうんはさっそくリビングに入ると、テレビをつけっぱなしにして、テーブルの上の花びんをひっくりかえしました。
タンスの中のようふくを、みんなひっぱり出しました。
おし入れの中からクレヨンを出してきて、カベにいたずらがきをしました。
びゅうんは、へやをちらかしたあとに、こまった顔をしたり、あわてたりする人を見るのが楽しみでした。
「あの子はきっと、おおあわてだぞ!」
びゅうんはやねにかくれて、ようすをみることにしました。
「こまった顔が見られるんだろうな。ボクのねむりをじゃまするからわるいんだ!」
やがて男の子は、かいものからかえってきました。
ドアをあけると、まずテレビのおとが聞こえてきて、ビックリしました。
「どうしたんだろう? テレビをつけっぱなしにするなんて。きっとぼくがアイロンをかけるのにむちゅうだったんだな」
つぎに、テーブルの花びんがひっくりかえっているのを見ると、
「ちょうどよかった。花がかれているから、とりかえるところだったんだ」
と、にわに出ていきました。
男の子はこまった顔をするどころか、にわにさいているきれいな花をながめて、ますますごきげんでした。
にわからもどると、クレヨンが出しっぱなしになっているのにきがつきました。
カベにも、らくがきしてありました。
男の子は
「うわぁ‥‥‥」
といいながら、しばらくカベのらくがきをながめています。
びゅうんは思いました。
「こんどこそ、こまった顔をするはずだ。思いっきりいたずらがきをしたんだからな」
けれど、男の子はうれしそうでした。
「きっと、ボクのおとうとがあそびにきたんだ。あいつはそうじが大キライだから。かわりにボクがそうじしてやったもんだ」
クレヨンをひろいおわると、男の子はまた、らくがきをじっくりと見て、
「なかなかよくかけているよ。どうやらげんきにやっているようだ。そうだ!この花もカベにとりつけてかざろう。まっ白なカベに、なにかかざりをつけたいと思っていたところなんだ」
男の子は楽しそうに、カベにかざりつけをはじめました。
びゅうんは、男の子がちっともこまった顔を見せないので、くやしがりました。
なんとかして、あの男の子をこまらせてやらないと、気がすまなくなりました。
「こうなったら、もっとこらしめて、思いしらせてやる!」
びゅうんがおこって立ちあがると、あたりはザワザワとすごい音を立てました。
「つよいかぜでおどかしてやるぞ!もっとビューンビューンとかぜをつかって、へやをめちゃくちゃにちらかしてやるんだ」
びゅうんは、そうきめました。
「それにはちょっと昼ねをして、体力をつけなくっちゃな」
びゅうんはやねにのぼって、ぐうぐうねてしまいました。
そんなことはなにもしらずに、となりの男の子が、びゅうんのいえにやってきました。
「ひっこしてきたんだから、となりのいえに、ごあいさつしなくては」
男の子は、びゅうんのいえにあいさつにきたのです。
げんかんのチャイムをならしました。
すると、まるでこたえるように、やねの上からいびきが聞こえます。
「上ですね。では、しつれいします」
男の子は、はしごをつかって、やねにのぼりました。
びゅうんはかぜの子なので、男の子には見えません。
でもやねには、あちこちあながあいて、ビュービューおとがするのだと思いました。
よく見ると、ペンキもはがれています。
「これはたいへんだ。ボクがきれいにしてやろう」
男の子は、びゅうんがねているなんてちっともしらずに、ペタペタとやねにみどり色のペンキをぬり始めたのです。
「これでよし! きっと、このいえのごしゅじんは、よろこぶはずさ」
男の子は、ピカピカになったやねを見て、まんぞくそうに下におりていきました。
やがて、びゅうんが目をさましました。
「あー、よくねた」
いつものように大きくからだをのばして、のびをしました。
ふしぎなことに、なんだか体がおもいのです。
よく見ると、じぶんの体がやねとおんなじ、みどり色になっています。
「ぎゃあああー!」
びゅうんはさけびました。
そして、かぜのおじいさんから、
「わるいことをすると、色がかわるぞ!」
といわれたのを思い出しました。
「ひえー!もうしないから、ゆるして〜!」
びゅうんはあわててとびあがると、もう男の子のいえにいたずらはしないときめました。
となりの男の子は、あいかわらずきれいにそうじをしています。
きれいにぬってあげたはずの、となりのいえのやねのペンキがまたはがれているのを、ふしぎそうにながめていました。
そこは、びゅうんのねていたばしょでした。
もう、やねでねるのをやめたびゅうんは、ちゃんとへやをかたづけて、今はおへやでねているのでした。