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【創作童話】カレンダー王国と魔女の鏡
「おまえは、なんてことをしてくれたんだ!」
その日、カレンダー王国の王様は、カンカンになって長方形のいすにすわりました。
ついさっき 、 王女の部屋で信じられないものを見たのです
それは、 この王国で、ぜったいに あって はならないものでした。
いつもなら、王様はソファーにどっかりとこしをおろして、コーヒーをのみながら、王国のようすをのんびりながめている時間でした。
お城の窓からは 、 王国全体を見わたすことができます。
カレンダー王国は上から見ると長方形で、東側に王族の住むお城 、西側に動物たちが住む町がありました。
どの家の屋根も、長方形に見えるように作られていました。
これは、長方形が好きな王様のこだわりでした。
カレンダー王国の王族と魔女は、人間の姿をしていましたが、町の住人は動物たちです。
王国に住む動物たちの家の屋根には、1から31までの数字がかいてあります。
1の家にはねずみが住んで、2の家にはうさぎがいました。
からだの大きな動物になると、だんだん数字も大きくなり、30の家にはキリンが住んでいて、31の家にはゾウがいました。
空からながめると、1から31までの数字が7つずつならんで、カレンダーのように見えるのです。
そんなカレンダー王国の王様の顔も、やっぱり四角い顔でした。
王国全体をそんなふうにしてしまったのも王家ですし、年に1度つくられる大切なカレンダーにも、もちろんきびしい決まりがありました。
伝統のカレンダーのデザインですが、使用する紙は白、数字や文字は黒でなければなりません。
ここまでは、どこにでもある普通のカレンダーと同じです。
けれど、上半分の写真部分がちょっと変わっていました。
1月から12月まで、12枚の写真を使うのですが、そこには王国に住んでいる動物たちの家族写真をのせることになっていたのです。
毎年、31の家族の中から、12の家族が選ばれて、王様と王妃様立ちあいのもとに写真が撮られます。
この写真を撮るときにも、細かい決まりがありました。
必ず、家族全員がそろって、紺色のスーツを着て正装していなければなりません。
男の子はネクタイを、女の子は髪に花飾りをつけなければなりません。
並んで椅子に座って正面を向いていなければなりません。
足を組んだり手をあげたり、ポーズをしたりしてはいけません。
背すじを伸ばして、王様がいいと言うまで動いてはいけません。
王国の子供たちは、この毎年の写真撮影が大嫌いでした。
けれども大人たちは、写真を撮られる12の家族に選ばれたくてたまらないのです。
なぜなら選ばれた1年間は、特別扱いにしてもらえるからです。
カレンダー王国の伝統のカレンダーに選ばれた、12の家族を紹介した記事が、新聞や雑誌に大きく取り上げられ話題になります。
12の家族の子どもたちは、学校や塾や習いごとまで、王国のタクシーが送り迎えしてくれます。
他にも、王国の電車やバスにはタダで乗れますし、レストランでは割引もあります。
特に、家族写真がのっている月になると、よその国のパーティーに招待されて、おいしいごちそうを食べられるなんてこともあるのです。
ですから王国の動物たちは、王様に少しでも気に入られようと、決まりはちゃんと守りました。
きちんとしていれば、来年も、そのまた次の年も、カレンダーの写真に自分たちの家族を選んでもらえると思ってはりきっているからです。
そんなわけで、王国の動物たちは王様に逆らうこともなく何でも協力してきたので、毎年のカレンダー作りは順調でした。
ところが、今日出来上がった新しいカレンダーを、王女に渡そうと部屋に持っていくと、壁に見慣れないものが飾ってあったのです。
それはピンクのカレンダーでした。
それもハートの形をしていました。
王様は眉をしかめてカレンダーを見ました。
おそらく王様に内緒で、王女が勝手に作ったのでしょう。
数字は白で月や曜日は英語で書かれています。
王女は王様に見られているのに、少しもあわてる様子もなく、
「ねーパパ。どう? このカレンダー、かわいいでしょ?」
と言いました。
「かわいいだと? けしからん!」
王様は怒鳴りました。
「お前はワシの娘だろう。この国の王女だ。そのお前が、よりによって‥‥‥。伝統あるカレンダーを使わずに、こんなわけのわからんものを部屋に飾るとは、一体どういうことなんだ!」
「いいじゃないの。私はピンクが好きなの。それにハートの形だったらもっといいと思ったのよ」
王女は、ぷいっと横を向きました。
「なにがハートだ! カレンダーというものは、どこから見ても長方形でなければならん!」
これは、王様の口グセでした。
王国の動物たちがこれを聞けば、
「はい。もちろんでございますとも王様。長方形でないものなんて、カレンダーではございません」
と答えるのでした。
王様はいつもそれを聞いて、気分よくお城に帰るのです。
王様は王女に、持ってきた伝統のカレンダーと取り替えるように言いました。
ところが王女は、
「こんなカレンダーいらないわよ」
そう言って部屋を出て行ったのです。
王様は王女に向かって、
「ピンクのカレンダーなど、わしは認めんぞ! 絶対に許さん!」
とさけびました。
王様はカンカンになって、王女の部屋を出ました。
いつものように、自分の部屋の窓から王国の様子をながめると、町の動物たちが、王様に向かっておじぎをしたり、手をふってくれているのが見えました。
「そうだ。王国のみんなは、あんなピンクのカレンダーではなく、いつもの伝統あるカレンダーを待っているはずだ。何もあわてる事はない」
そう自分に言い聞かせました。
こんなことで、王女とケンカしている場合じゃないと思いました。
王国の動物たちは、伝統のカレンダーを見てきっと喜んでくれることでしょう。
そして『こんな立派なカレンダーを作ってくださるとは、やはり王様は素晴らしいお方だ』と、評判になることでしょう。
王様はいつも出来上がったカレンダーを、王国のみんなに直接手わたしたあと、わざわざ評判を聞くために、外を出歩いたりするのです。
そこで良いことを聞くのが楽しみなのです。
「やっぱり、わがカレンダー王国にぴったりの王様ですね」
と言うものがいました。
「王様がいて下さるおかげで、素晴らしい暮らしができております」
と言うものもいました。
王国のみんなから、そんなふうに声をかけられて、王様はすっかりいい気分になって帰るのでした。
ですから、もしも王女が伝統のカレンダーを使わずに、自分勝手にハートの形をしたピンクのカレンダーを、部屋に飾っているなんてことが知れたら‥‥‥。
王様は、王国のみんなにバカにされるかもしれません。
王にふさわしくないと言われるかもしれません。
それだけはどうしても許せないのでした。
「ええい! 悩んでいたってしかたない。カレンダーを配りに行こうじゃないか!」
王様はカレンダーを持って立ち上がりました。
ちょうどその時、ほうきに乗った魔女が現れました。
魔女は王女と仲が良く、いつも遊びに来ていましたから、今日も王女に会いに来た事はすぐにわかりました。
けれども、あのピンクのカレンダーのことが頭から離れませんでした。
魔女を王女に会わせれば、ピンクのカレンダーを見られてしまいます。
王様はあわてて魔女を呼び止めて、今日は王女の具合が悪いから、帰ってくれないかとたのみました。
すると魔女は、
「いいえ、王様。今日は王女様ではなく、王様にお話があります」
そう言うと、お城のベランダでほうきから降りました。
王様は少し不機嫌になりました。
これからカレンダーを持って、出かけるところでしたから。
それでも、王女の部屋を見られるよりはマシでした。
おしゃべりな魔女は、王女の部屋のピンクのカレンダーを、王国のみんなに話すでしょう。
そうなれば、たちまち王様の評判はガタ落ちです。
王様はできるだけ気持ちを落ちつかせて、魔女にソファーをすすめました。
そして、ゆっくりと口を開きました。
「それで、なんだね? 私に話とは」
「実は、来年のカレンダーが出来上がるのを、とても楽しみにしていたんですよ。なんといっても、私の友達のうさぎ家族が初めて選ばれたんですもの。これはもう、すぐにでも見に行かなくちゃって思ってたんです」
「おお、そうか! 城に来れば、一番に見られるからな」
王様は満足げにうなずきました。
魔女が伝統のカレンダーを、こんなにも待ち望んでいるのだと知って、うれしく思いました。
「待たせてしまってすまないね。たった今配りに行こうと思っていたのだよ」
すると魔女は、思いがけないことを言いました。
「いいえ、いいんです。私はもう見ましたので。だけど珍しいですよね。まさか色をおつけになるとは」
「なんだって?」
王様はきょとんとして、思わず手に持ったカレンダーに目をやりました。
(まさか印刷ミスで、色が入ったんじゃないだろうか?)
と疑いました。
けれど見えるのは、確かにいつもの白いカレンダーです。
魔女は続けてこう言いました。
「じつは、私の新しい魔法で、見たいものを映し出す鏡があるんです。どうしても来年のカレンダーを早く見たくて。もちろん王様からいただけるのはわかっていたんですけど、うさぎ家族が初めてカレンダーにのるのが、まるで自分のことのように嬉しかったものですから。魔法の鏡を使って、王女様のお部屋を映してみたんです。そしたら、ちゃんと見えたんです。ピンクの素敵なカレンダーが!」
「あ‥‥‥!そ、それは‥‥‥」
王様はあわてて口をパクパクしましたが、うまく言葉が見つかりません。
「王女様はいつも、1番にお部屋に飾られますものね。あれは間違いなく、来年のカレンダーなんですよね。しかもハートの形だなんて、とってもおしゃれじゃないですか!」
魔女はしばらく、王女のカレンダーを思い出してうっとりしていましたが、急に向き直っていました。
「それにしても、あれほどまでに伝統にこだわってお作りになられていたのに、どうしてこんな思いつきをされたのか、とても気になったものですから、今日はどうしてもお話が聞きたくてうかがったんです」
「いや、あれは、王女が‥‥」
王様は思わず、本当のことを言いそうになって、あわてて口を押さえました。
「王女様のアイデアなんですか! お部屋のものはいつもピンクですものね。そうだ! ピンクの好きな王女様のために、こんな素敵なカレンダーにしようと思ったんですね!」
魔女はあのピンクのカレンダーを、王様が作った伝統のカレンダーだと思い込んでいるようです。
「長い伝統よりも、王女様のお気持ちを大事にされて、やっぱり王様は素敵なお方です」
「そうか、そんなにいいかね」
魔女にほめられて、王様も悪い気はしませんでした。
ほんの少しだけ、カレンダーをピンクにしてもいいかもしれないと思いました。
けれども、すぐに首を振りました。
「なんて事だ! 大切な伝統のカレンダーがあるというのに」
魔女は、カレンダーが届くのを楽しみに待っている、と言って帰っていきました。
その時、さっきまで魔女が座っていたソファーに、キラリと光るものを見つけました。
手鏡でした。
「魔女のやつ、忘れていったな」
王様は手に取って眺めましたが、何も映りません。
「そうか。たしか、見たいものを映し出す鏡だと言っていたな」
「あら、いいものがあるじゃない」
ふりむくと、ドアのところに王女が立っていました。
「聞いていたのか」
「魔女も喜んでたでしょう? カレンダーがピンクで」
「あれは、ただ‥‥‥‥‥めずらしがっていただけだ」
「今ごろ、王国のみんなに言いふらしているでしょうね。来年はハートの形をしたピンクのカレンダーですよって」
「フン! そんなこと言ったってムダさ。王国の住人たちは、みんな伝統のカレンダーが1番いいと思ってるんだからな」
王様は自信たっぷりに言いました。
「本当にそうかしら?」
王女は、王様の手から魔女の鏡を取り上げました。
「何をする! 人のものを勝手に‥‥‥‥」
「ちょっと見てみたいのよ、町の様子を」
「町の様子だと?」
「見たいもの映し出す鏡だって言ってたんでしょ? ちょうどいいじゃない。これで王国のみんなが、ピンクのカレンダーの話を聞いて喜んでいるところを見るのよ」
「ばかばかしい! そんなものを喜ぶわけがない。伝統のカレンダーがいいに決まっているじゃないか」
そう言いながらも、王女のとなりで鏡をのぞきこんだ王様は、そわそわと落ち着きません。
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