【創作童話】なんでも屋のみけねこ
良太くんが、ランドセルをせおって家に帰ろうとすると、道のまんなかにチラシが一枚落ちていました。
わたしは『なんでも屋のみけねこ』でございます。
お部屋のそうじ、せんたく、おりょうり、
へやにもつのおとどけ、おつかい、
おるすばん、などなど‥‥‥
どんなことでもおまかせください。
黒の太いペンでかかれたそのチラシは、紙はしわくちゃで、ざらざらしていました。
いつも家にとどくチラシには写真があって、赤や黄色のカラフルなもようがついて、ねだんが書いてあるものです。
けれども、そんなものはどこにもないのでした。写真のかわりに、おおまかな地図がありました。
ねだんのかわりに、あまりかわいいともいえないようなねこのイラストと、あしあとがついていました。
それでも、良太くんはこのねこに会ってみたい気がしました。
「なんでもって、本当になんでもしてくれるのかな?」
ふと、お店のカウンターに本物のみけねこが立っていて、エプロンをしてうごきまわっているすがたが目にうかびました。
お皿をあらったり、お弁当を作ったり、そうじきをかけたりするのでしょうか。
字がかけるのだから、手紙を出したりするのかもしれません。
「そんなねこがいたら、おもしろそうだな」
と良太くんは思いました。
そこで、ちょっとお店をのぞいてみることにしました。
チラシの地図によると、お店は 良太くんの家の近くの公園にあるらしいのです。
けれども今まで、なんかいあそびに行っても、そんなお店があることには気がつきませんでした。
新しくお店ができれば、この小さな町ではたちまちうわさになってしまうでしょう。
けれど、そんな話も聞いたことはありません。
「だれも気がつかないほど、小さいお店なのかな」
もしそうなら、すごい秘密を手に入れたことになります。
ねこが大好きな良太くんは、わくわくしてきました。
「このチラシは、お母さんにはないしょにしておこう」
もし、そばにお母さんがいたら、
「そんなチラシはすぐにすててしまいなさい」
と言ったでしょう。
だってお母さんは、ねこが大の苦手なんです。
「みけねこに、なにをお願いしようかな。サッカーや野球のメンバーにしょうか。かわりに宿題なんてのもいいな‥‥。そうだ、わすれものをとどけてもらうのがいいや。今日はリコーダーわすれて、先生にしかられたばかりだから。そんなとき、みけねこがとどけてくれるとたすかるな」
公園につくと、近所の子どもたちがすなばやブランコであそんでいました。
すぐそばで、エプロンすがたのお母さんたちがおしゃべりしています。
良太くんは、さっそく『なんでも屋』をさがそうと、キョロキョロあたりをみまわしました。
けれども、どこをさがしてもそれらしいお店も看板もありません。
「おかしいな‥‥。たしかにここなんだけど‥‥」
そのとき、かわいらしい声がしました。
「ようこそ、なんでも屋へ」
子どもたちの声にまじって、たしかにそう聞こえました。
よく見ると、みけねこがいっぴき、すべりだいの上にちょこんとすわっていました。
首に青いリボンをむすんで、めがねをかけて、
「ここですよ、ここ!」
と良太くんにむかって手まねきしています。
良太くんは、胸がドキドキしてその場からかけだしました。
こんなことするねこなんて、ぬいぐるみか、お店の看板でしか見たことありません。
それに、もしかしたら『みけねこ』はお店の名前だけで、店員さんはふつうの人間かもしれないと、心のどこかでうたがっていましたから、今こうして本物のみけねこがあらわれてくれて、とびあがるほどうれしかったのです。
「あのう。ボク、仕事をたのみたいんだけど」
良太くんは、さっそくお願いしました。
「はい。どんなことでもひきうけますよ。今のところ、スケジュールは空いておりますから」
みけねこはおちついた声でこたえると、ビジネスマンみたいに携帯電話なんかとりだして、なにやらボタンを押しています。良太くんは、いそいですべりだいの階段をのぼりました。
そっと、ケータイの画面をのぞいてみると‥‥。
どうやらみけねこは、スケジュールをすべてケータイの中にうちこんでいるみたいです。
「それじゃあ、にもつを学校までとどけてもらえるかい?」
「かしこまりました。それで、にもつはどちらに置いてあります? すぐに重さをはからせていただきましょう」
みけねこは黄色いバッグから、大きな体重計をよいしょっととりだしました。
「いや、そうじゃないんだよ。ボク、わすれものが多いから、わすれたときにとどけてくれる人がいたらなぁって‥‥‥」
「そうですか、今はおとどけするものはないんですね? それでは、なん月なん日にどんなものをおわすれになるのでしょう?具体的にスケジュールをくませていただきます」
みけねこはケータイをかまえて、
「さぁ、おっしゃってください」
と言いました。
「そんなこと言われてもなぁ‥‥」
良太くんはこまってしまいました。
だいたいいつ、なにをわすれるかがわかっていたら、わすれものなんてするはずないんですから。
そこで、良太くんはいいことを考えました。
「それじゃ、ボクがわすれものをしないように、きみが次の日の準備をするっていうのはどうだい?」
「いいでしょう。そのほうが仕事の時間もはっきりしますからね。こちらもたすかりますよ。それで、具体的にはなにをすればよろしいですか?」
「そうだなぁ‥‥。毎日ボクの部屋に来て、時間割をあわせるとか」
「わかりました。では、さっそく今日からうかがいましょう。けいやくは一か月にしておりますがよろしいですか?」
「うん!いいよ」
良太くんは、すっかりうれしくなりました。
「それではこちらに、サインと自宅までのかんたんな地図をおかきください」
みけねこが小さくたたんだ紙を広げました。
紙はやっぱりしわくちゃでしたが、良太くんはそんなこと気にしないで、自分の名前をかきはじめました。
けれど、絵は苦手だったので、地図はわかりにくくなってしまいました。
しかたないので、口でせつめいすることにしました。
「そこの信号をまがって、自動販売機があって、ポストがあって‥‥‥」
「よくわかりませんが、近くにどんなねこがいます?」
「白いのと、茶色いのがいっしょにいるよ。おばさんに、コロとリキって呼ばれてる」
良太くんがいっしょうけんめいみけねこに話しているのを、近所のお母さんたちは不思議そうに見ています。
遠くからではみけねこは見えないので、ひとりでしゃべっているように思えるのです。
「それでしたら、三丁目五番地、佐藤さんのお宅ですね」
「ボクの家はとなりだよ。ねこはいないけど」
「西山さんですか‥‥‥。それでは、お母さんはねこがあんまり好きではないようですね。町ではうわさですよ」
みけねこは、この町のねこのことはもちろん知っていましたし、どんな人に飼われているか、どの人がねこが苦手かということまでちゃんと頭に入っているようなのです。
「大丈夫だよ、時間割あわせるだけだもん。たいしてはかからないよ。それに、ボクの部屋でやるんだもん。見つかりっこないよ」
良太くんはあわてて言いました。
せっかくのけいやくを、ことわられてはたいへんです。
「そうですか。それならいいんですが」
みけねこは、さっさとケータイのスケジュールに登録をすませると、良太くんがサインしたとなりに自分の前足を押しつけて、
「それで、なん時ごろおうかがいしましょうか」
と聞きました。
「そうだな。あんまりおそいとお母さんが部屋を見にくるかもしれないから、できれば学校おわってからすぐがいいよ」
「それでは、さっそく今からまいりましょう‥‥‥。できました。けいやくしょです」
チラシと同じようなあしあとがついています。
これが「なんでも屋のみけねこ」のお店の印かんだったのです。
「わたしは『リン』といいます。どうぞよろしく。それから代金についてお話ししなければなりませんね。わたしはお金はいりません。そのかわりにお菓子がほしいんです。近所に、おじいさんとポポロという犬がやっているお菓子屋があるのをごぞんじですか?」
「うん、知ってるよ。『お菓子屋のポポロ』だね」
「ええ、そうです。では毎週金曜日になったら、その店から『スチップキャンディー』というのを買ってきて、この公園に持ってきてください。毎日一本ずつ、一週間分まとめていただきたいんですが」
「わかった。それだけでいいんだね」
「ええ、けっこうです。それではまいりましょう」
みけねこのリンはすべりだいをおりると、すぐに良太くんの家にむかって走りだしました。
「あ、待ってよ」
良太くんも、あとをついていきました。
リンはまようことなく良太くんの家へ行くと、玄関の前でくるんとしっぽをまるめてすわっていました。
「さあ、部屋へ案内してください」
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