
尖りを持つこと
会社員時代に、新入社員や新卒の社員に話すようにしていました。その時に話したのが「尖りを持つこと」でした。
ビジネスの7割(ひょっとすると8割)は他人から教えることができる定型化されたスキルでこなせると思っています。
その仕事に必要な専門的知識やビジネスの基礎はトレーニングや業務中に習得できます。
残りの3割は、その人の個性が活きてきます。それが「尖り」です。他人の懐に入り込む性格や、趣味や好みから得た特殊な知識や技能がビジネスの役に立ちます。
例えば、飲み会で構築した人脈や、留学で培った英会話技術で、他人とは異なる結果を生み出すことができます。
僕はデータベースを扱うのが昔から好きだったので、仕事上で問題に直面したときにデータベースを用いて分析し解決することが多かったです。
ビジネスだけではなく、小説の執筆でも「尖り」は大事だと思います。
ゼロから作る小説の場合、作家によって物語の形は大きく異なります。定型化されたフォーマットはほぼ存在せず、ビジネスで問題をクリアするような手法はありません。同じジャンルの小説でも文体や登場人物、風景描写は作者によって書き方が大きく異なります。
ビジネスと同様に、作家の持つ「尖り」が作品の個性になります。文章が巧みだったり、珍しい経験があったり、他の人にはない専門知識を持っていたりすることが「尖り」です。
小説家として自分の尖りが、なにかよく考えます。軽い調子の会話が得意だと思っていましたが、それが面白いという感想をもらったことはほとんどありません。
自分が思っているよりも「普通」なのかもしれません。
もうひとつの尖りは、「歴史」です。子供の頃から歴史小説が好きで、吉川英治さんや司馬遼太郎さんの作品を読み倒しました。
もちろん、専門家の方に比べたら僕が持っている知識なんてわずかだけど、小説を書く上で、歴史の知識を「尖り」として用いることが多いです。
「ねこつくりの宮」には、歴史好きの女性が主人公です。ところどころで披露される歴史の蘊蓄が物語終盤の伏線になっています。
だけど、歴史小説を書こうとは、今のところ考えていません。事実を真正面から捉える歴史小説を描けるほどの知識はないからと、確定事項である歴史の枠内で物語を描く技術がまだ足りないと思えるからです。
いつかは挑戦したい分野ですけどね。
小説家としてやっていくには、多面的な物語をたくさん作るために、他にの「尖り」を意図的に作っていく必要があると思っています。
そのために、映画を観たり、本を読んだり、インプットを繰り返しながら、鍾乳洞にできる石筍のように尖りを作っていくべきなのでしょう。