「PPP/PFIの教科書」書籍出版 体験記 その①「きっかけ」
2024年の2月に「これ一冊ですべてわかる PPP/PFIの教科書」という解説書を中央経済社より出版しました。出版前から「書籍ができたら、それまでの取り巻くストーリーを伝えると、誰かの役に立つかもしれないよ」とアドバイスいただいていたので、何回かに分けて綴っていこうと思います。
さて、第一回は「本を出すことになった、きっかけとは」です。
「書籍出版には興味があるが、PPP/PFI(官民連携)って、何じゃそりゃ?」という方も、専門知識なしでもイメージいただけるようお伝えしますので、ぜひお付き合いください。
〔1〕コンサル現場で遭遇した「知らない」とは言えない現実
いきなりですが、例えばあなたが料理専門家だとして、「ごはんをガスで炊きたいのですがガスをつけて何分後に火を強くしたらいいですか?」と聞かれて、「いや、お米はずっと電気炊飯器なので…」とは言い出せない場合、どうしますか?
専門家として答えないわけにはいかないけれども、正解には自信がない。何とかごまかしたくなりませんか…?
同じような場面に、自治体や民間企業のPPP/PFIのコンサル現場で遭遇したことが、何度もあります。
例えば、東日本のある自治体職員の方と、宿泊施設にキャンプ場を増設する件について協議していた時のこと。
私が何気なく「キャンプ場は、グランピングなど新しいスタイルも増えているので、自治体内部だけで仕様を決めず、民間アイデアが活かせるDBO方式を採用してもいいかもしれませんね」とお伝えしたところ、その職員の方は、目をキラキラさせながらノートに何かメモを書き取りました。
その、あまりのキラキラぶりに、いささか不思議な思いを覚えた私は、話題が他に移っていってから、何気なく横からこっそりノートをのぞき込んでみました。
すると、そこに書かれていたのは「TPO」・・・そう、ビジネスマナーの基本として耳にすることの多い、時間(T)と場所(P)、場面(O) だったのです。
あの目のキラキラぶりは、PPP/PFIに関する基本ワードを知らないから、理解もできないし、言葉も聞き取れない。でも、自治体職員として「知らない」とは言いだせないので笑顔で誤魔化して、とりあえず頭に浮かんだ言葉をメモした結果でした。
そう、公務員といっても、みんながスーパースペシャルなわけじゃない。
定期的に異動もあって、全然専門が違う部署に行くことも珍しくないですし、知らない知識があるのも当然です。
ただ、所管施設の担当公務員として、民間人相手(つまり私のコト)に
「実は知らない」「実はわからない」とは言い出しにくい…。
そうした現実を目の当たりにして、誰かに聞かなくても、基本がさっとわかる参考書のようなものがあれば便利だろうなあ…と思い始めたのでした。
こうしたことは、形を変えて、民間企業の場合にもたびたび起こりました。
たとえば、首都圏のあるインフラ系の上場企業の場合。関連会社に役員として出向してきたところ、現場の社員はみんな長年PPP/PFIに慣れ親しんでいるものの、自分は初めての経験なので、制度も言葉も勘どころもなく、部下たちの会話についていけない。
これではいけないと思い、上場企業での経験を活かし、色々指示をするものの、自分自身は民間企業同士の業務経験しかないため(PPP/PFIは公共と民間の業務となります)、どうもトンチンカンな会話になってしまう。
でも、役員として来ていることもあって「イチから教えてくれ…」とは言いだしづらく、トンチンカンなまま話が流れていく・・・。
人事異動時期の4月になると、そういうお困りごとを抱えた方が「ちょっと教えてほしい」とこっそり会社に来られたり、「相談に乗ってほしいから会社まで来てもらえないか」と呼び出されて、部下の方がおられない会議室で相談を受けたり・・・そういう機会が増えていったのです。
【2】セミナーの限界を痛感したが…
コンサルタントという仕事は、どちらかと言えば、基礎的なことをわかりやすく解説するよりも、珍しい事例だとか、変わったスキーム(仕組み)の構築だとか、細かいテクニック論などを、カタカナやアルファベットいっぱいで、小難しい語り口で発信するほうがカッコよくて、”専門家の先生”というステータスがあがる職業です。
ただ、そんなことをしていても、PPP/PFIのすそ野は広がらない。少子高齢化でまちのチカラが衰退していく中で、少数のスゴく得意な自治体や民間企業が活躍しているだけではダメで、苦手だけどやってみようかな…という垣根を下げるには、カンタンにわかる機会を増やしていくことが重要です。
「知らない」から「わからない」し、「わからない」から主体的に「取り組もう」と言い出せない・・そんなループを断ち切るには、まず基本を伝えることが大切です。
そうしたことから、カッコよくなくても構わないので、自治体(特に人口10万人未満の小さい自治体)や民間企業の方を対象に、PPP/PFIの基本を解説する無料セミナーを、どんどん手掛けるようになりました。
自治体単独の庁内勉強会であれ、団体主催のセミナーであれ、はたまた自分達が主催して国土交通省が後援するような、ちょっと大きめのウェビナーであれ・・・。
参加は基本的に無料ですし、講演料も無料というものも多くありすが、アンケートで手ごたえを感じていた私たちは、とてもやりがいを感じていました。
ただ、パワーポイントを使ってスライドごとに話をまとめ、クリックでどんどん画面を切り替えながら、時間内に納まるように解説するだけでは、やはり、全員に伝わりきるわけではありません。
「え、今の言葉って、どういうこと?」「仕組みが頭に入らないから、もう一回言ってほしいけど…」
みんなが基本を解説するには、こういう場が必要なのですが、開催時間が決まっている「セミナー」という形式では、質疑応答時間を設けたとしても、やはり限界があります。
本当は、自分のペースで、好きな時に好きなように読める「書籍」というスタイルが、一番適していることに薄々気づくようになりました。
ただ、スライドをめくるパワーポイントレジュメと、最初のページからストーリーとして構成されるのが当たり前の”文章”に書きおろして書籍にするのでは、全くかかる負荷が違います。
しかも私は、文章を書くことそのものは好きですが、書くのがとても遅い。
そのため、「本を書く」「本を出す」ということを自分ゴトとして考える機会は全くなく、セミナーという形で伝えることが何年か続いていました。
〔3〕3つの偶然が重なり「本を書く」が自分ゴトに
そうした中で、3つの偶然が揃って「本を書く」ということが自分ゴトになる日がやってきたのです。
1つめは、企業や個人のブランディング支援をしている知人から、「出版社の編集長を紹介するから、会社のブランディングのためにも書籍をだしてみたら」と強く勧められたことです。
以前にも、その知人からのお声がけで、株式会社PHP研究所が運営するウェブサイト「THE 21 ONLINE」に『人口減少に立ち向かう? 日本政府が推進する「SDGsとまちづくり」』という記事を書いたことがありました。
当時、SDGsカードゲームのファシリテーターの資格を取ったばかりだった私は、文章を書くのは好きだし、PPP/PFIとサステナビリティに関する情報発信ができるのであれば、原稿料タダでも喜んで書きます!と二つ返事でお引き受けしたのです。
私にとっては、「表現できる場をもらって、うれしいな」とワクワク数ページのサイト原稿を書いただけつもりだったのですが、その知人いわく、THE21 ONLINEの編集部から全く修正依頼がなくサイトに掲載されたことから、「こいつは、本も書けるんじゃないのか…」と思ったそうなのです。
どういうチャンスが、どこから転がり込んでくるかは、わからない。
ただ、最初にサイト原稿作成のお話をいただいた時に「原稿料タダだし、面倒くさいから、ヤダ」と答えていたら、書籍出版にはたどりつかなかったかもしれません。
ただ、この時は、まだまったくやる気になっていませんでした。
理由は、「仕事が忙しくて時間が作れそうもないし、そもそも文章を書くのにものすごく時間がかかるから、数ページならともかく、数百ページも書くのは想像できないので…。」
熱心に誘ってくれるのを横目に、うーん…という状態だったのです。
そのなかで、腰をあげてみようかな…と思った2つめの出来事は、実際に著書を出版した経験がある人が身近にいたことです。
名前は、ナカムラさん。うちの会社でマネジメント・コンサルタントをしています。彼は異業種だった前職時代に著書出版を経験しており、うちの会社に転職してきた後も、大手ビジネス誌から電話取材が入ったことさえあるのです。
そのナカムラさんが、私に本を書くように熱心に進めてくれ、「書くのは嫌いじゃないけど、本当に書くのが遅いから、いやだ」という私を、自分の体験談を交えながら、何度も何度も、本当に粘り強く誘ってくれたのです。
身近に書籍出版の経験者がいると、イメージができて心強いもの。そういう存在がいたからこそ、書籍出版をリアルに感じることができました。
本を書くのが本当に楽しくなった今となっては、彼は一生の恩人です。
そして、本格的にやる気にスイッチがはいった3つ目の出来事は、中央経済社の編集長の和田さんとオンラインでお話ししたことでした。
それまで、「編集長」というと、テレビドラマの提供で「とっても怖い人」(菜々緒さんとか、中島健人くんとか)というイメージしかなかったのですが、和田さんはとてもソフトで上から物を言わないし、決めつけた言い方をしない方でした。
しかも、インテリのヒトに多いユーモア精神もあって、お話ししていて楽しい。
でも、「うちは校正はするけれども、校閲はしません。内容が信頼できる専門書を書ける方にお願いしていますので。(キッパリ)」・・・といった、断言すべきところは、バシッとお話しになるのも、信頼できるところ。
(いや、私は、自信がないと言いたかったのではなく、石原さとみちゃんみたいな「校閲部」っていうのが本当にあるのかを聞きたかっただけだったんですけどね…)
さらに、PPP/PFIの専門書を複数出版しているだけあって、「書きたい内容の打合せ」もスムーズでした。
「この方となら、チームとして原稿執筆という波に乗り出していけるかもしれない」・・・こうした偶然のタイミングが重なって、しっかり心が決まり、書籍出版の旅がはじまったのです。
もちろん、最初に編集長の和田さんとお話しする前は、知人を介して、「出版企画書」なるものをお渡ししてありました。
そのお話しは、第二回で。
ここまでお付き合いいただいて、ありがとうございました!
また、次回もnoteでお会いできることを、楽しみにしています。
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