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不思議なお話

『誰にでも、見守ってくれている存在がいる』
そう言われたら、あなたはどう思いますか?
これは、わたしが子どものころに経験した不思議なお話です。

物心が付いたころ、いつも近くにたくさんの人がいました。
この『いつも』とは『毎日』のことではありません。『24時間』かまわず、わたしがひとりぼっちになると来てくれていたんです。これが日常だったので、子どものわたしは何の違和感もありませんでした。
その人たちは同年代の男の子や女の子をはじめ、小学生くらいのお兄ちゃん、お母さんくらいにみえる大人の女の人、腰の曲がった着物姿のおばあちゃんやグレーの作業服を着たおじいちゃん、という具合に老若男女、じつにたくさんの人がいたのです。
24時間いつでも来てくれたので、ひとりっ子にもかかわらず、寂しいと思ったことはほとんどありませんでした。

生まれて初めての遠足

幼稚園に入園して数か月がたったころ、生まれて初めての遠足がありました。
前日にお弁当の食材を買いに行くというママと、一緒に買物へ出かけます。いつもならぜったいに買ってくれない、お弁当用ミートボールをこの日はあっけなく買ってくれました。この時、遠足という行事が特別なのだということを知ったのです。

翌朝、卵焼きやウインナーを焼くいい匂いで目覚めます。
わたしは空腹でたまらず布団から飛び出し、ママのいる台所に直行しました。
見るとちょうどお弁当箱に前日に買ってくれた、ミートボールを入れているところです。
「ほかには何がはいっているのかな?」
わたしはママの横に並んでお弁当箱をのぞき込みます。
大好きな卵焼きとタコさんのウインナー、そしてミートボールが入っていて今すぐにでも食べたくて、うずうずしながらママを見上げました。
するとママはいたずらっぽい表情で笑い、お弁当箱に入りきらなかったミートボール1つをわたしの口にポンっと放り込み、弁当箱を猫柄の巾着に入れました。
「さとちゃん、これをリュックに入れられる?」
「うん!」
わたしはワクワクする気持ちと一緒にお弁当をそーっとリュックに入れ、人生初の遠足に出発します。

初めて訪れた公園

遠足の場所は森林公園でした。
初めて訪れたその公園では、それまで遊んでいたものとは比べものにならないほど長くぐるぐる回る大きな滑り台がありました。さらにジャングルジムや砂場もあります。初めて見たその大きな滑り台を気に入ったわたしは、何度も何度も滑りました。肩まである髪の毛がふわぁっとなびいて、何とも言えない爽快感が味わえます。夢中になっていると、
「は~い、みんな集まって。お昼ごはんにしますよ」
先生の一声でお昼ご飯の時間、みんないっせいに集まります。

滑り台の先には、一面緑色の草原がありました。
みんな仲のよい子たちと一緒にまとまって、レジャーシートを広げます。
いまだクラスの子たちと馴染めていないわたしの周りには、いつもの老若男女たくさんの人たちがいつの間にか集まっていました。
「じゃ、ここで広げようかな」
みんなの顔を見ながら、レジャーシートを広げてその上に座ると、お弁当箱を膝の上に置きました。とても日差しが強かったので、腰の曲がったおばあちゃんは、日射病になったら大変と言いわたしに白い日傘をさします。

一人?

「一人? 一緒に食べない?」
と、女の人の声がしました。
この女の人はみーちゃんのママ。
みーちゃんというのは、幼稚園の近くの盲学校の女の子です。幼稚園で遠足があると参加しています。いつもはみーちゃんとふたりでお弁当を食べるのだけれど、わたしが一人だったことが気になって声をかけてくれたと言っています。
「え? わたし一人じゃないけど?」
あたりを見渡すとあんなにたくさんいた人たちが、なぜかひとりもいません。折りたたんだ白い日傘だけが、わたしのレジャーシートのすみにポツンと残っていました。

不思議

 その日は結局、あの人たちは誰ひとりわたしの前に現れることはありませんでした。
だけど、その後もひとりぼっちのときには何度も遊んでもらったのです。
そしていつのころからか、パタッと来てくれなくなっていました。

 今でも出会いと別れを繰り返すたび、不思議なご縁を感じながら
『誰にでも、見守ってくれている存在がいる』
と思うことがあります。

もしかすると、子どものころのあれは、わたしを心配してくれたご先祖様だったのかもしれません。


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